全力解説 vol.15「逆子って直せるの?」

今回のテーマはXで募集してみたのですが…

こういうアンケートを取る時、だいたいいつも1つだけが突出して高い投票率になるものですが、
今回は1位「逆子」と2位「ニセ医学詰め合わせ」の差がわずか0.4%、票数にして10票差という超僅差でした。
この両者には及ばなかったものの、3位「がん検診と人間ドック」もなかなか高い得票率でしたね。
ここからの3回は1位~3位をテーマに書いていこうかな?
正露丸はあんまり人気なかったので気が向いたら書きます🐻❄️
というわけで、本日のテーマは「逆子って直せるの?」であります。
日本では逆子(骨盤位)の妊婦さんに対し、逆子体操を指導したりお灸をしたりする場面がよくありますが、
これは果たしてどれだけ効果があるのでしょうか?
というかそもそも、逆子だと帝王切開になる理由はいったい何でしょうか?経腟分娩が推奨されない理由とは?
本日はこれをテーマにお話ししましょう🐻❄️
逆子のまま微動だにせず、36週頃に突然頭位になり母をやきもきさせた経験のある私が解説します。
いやーあの時は大変だったぜ。
逆子(骨盤位)のリスクについて
まず、「逆子は難産になる」という話を聞いたことがある方は多いはず。
これは実際その通りで、逆子のお産の難しさに関しては人種差や地域差は一切なく、古今東西における共通認識です。
最も古い文献のひとつとして、古代ギリシャの哲学者・ソクラテスの母親は産婆さんだったのですが、
具体的な手法は不明ながら「うちのママは逆子の出産時には何とかして頭を下にするように頑張ってたわ」と言っていた記録が残っています。
ソクラテスをして「逆子はヤバい」と弟子に語り継がざるを得ないものだったわけですね。

ここからだいぶ時が経ち、1876年に歴史上初めて母児ともに生存した帝王切開がイタリアで行われ、
これ以降は「経腟分娩できない場合は帝王切開をする」という選択肢が生まれることになります。
とは言っても、この当時の帝王切開による母体の死亡率は数十%と、本当に本当の最終手段でしたし、
現在の日本のように骨盤位のほとんどが帝王切開になるのはまだまだ先の話であり、
むしろ昭和くらいまでは「逆子をうまく経腟分娩で取り上げられてこそ一人前の産婦人科医」といった風潮すらありました。
(昭和50年代から産婦人科医をしているやっきー父情報)
しかしながら、医学の発展とともに、
「やっぱりどう考えても逆子は悪い結果になる確率が高い」
「逆子は帝王切開にした方が母児にとって良いんじゃないのか?」
といった意見が少しずつ出てくるようになりました。
実際、骨盤位の経腟分娩には「臍帯圧迫や臍帯脱出が起きやすい」「微弱陣痛になりやすく、分娩に時間がかかることで母児の体力が失われやすい」といったデメリットが指摘されています。

出典:病気がみえる 産科編(第3版)
しかし、具体的に骨盤位の経腟分娩が、帝王切開に比べてどの程度のリスクがあるのか?
というところは結論が出ないままの状態が続いていました。
この議論にひとつの決着をつけたのがカナダのメアリー・ハンナ先生による「Term Breech Trial」と呼ばれる調査で、
彼女は2000年に26か国・121施設における2083人分の骨盤位妊娠のデータを元に、
骨盤位の経腟分娩は、赤ちゃんの死亡率が帝王切開の約4倍にのぼったことを発表しました。
また、同調査では複合転帰不良(死亡または重篤な合併症)のリスクも約3倍にのぼっています。
詳細は後述しますが、現在の日本で骨盤位の経腟分娩をほとんど行わない最大の理由がこの「Term Breech Trial」にあります。
具体的な割合で言うと、骨盤位で経腟分娩をしようとした場合、
ざっくり100人中5人の赤ちゃんが重篤な合併症または死亡となるわけです。
この割合であえて経腟分娩を選択するのはあまりにもリスクが高すぎます。
妊婦さんや赤ちゃんにとってもそうですし、医療者側にとっても訴訟リスクが無視できませんからね。
そんなTerm Breech Trialですが、「さすがに骨盤位の経腟分娩を悪く言いすぎじゃね?」という意見も存在していました。
というのも、Term Breech Trialには「骨盤自体の評価ができてない(骨盤が狭い等、仮に頭位であっても経腟分娩できなかったであろう人まで計算に入っている)」
「赤ちゃんが2歳になった時点での予後は経腟分娩でも帝王切開でも差がなかった」という弱点が存在したのです。
そこでフランスのフランソワ・ゴフィネ先生が動きます。

何でフランス?と思われるかもしれませんが、
Term Breech Trialにいまいち納得いってなかった国の代表格がフランスでして、
メアリー先生(カナダ)👩⚕️「逆子を下から産むの、赤ちゃんにメチャクチャ悪いから絶対やめてね!」
フランソワ先生(フランス)👨⚕️「何言っとんじゃこちとら数十年コレで無事にお産やっとんじゃ証拠見せたらあああああ」
というバッチバチの殴り合いが始まりました。
フランソワ先生(仏)の言い分としては、無痛分娩が広く普及しているフランスでは計画的経腟分娩(日にちを決めて分娩誘発・出産すること)が一般的なのですが、
計画的経腟分娩なら事前に入院管理もできているし、急変時の対応も可能だからTerm Breech Trialの結果ほど悪くはならないんじゃね?という主張だったわけですね。
そこでフランソワ先生、Term Breech Trialのデータの元になった2083人の約4倍となる、
計8105人分の骨盤位のデータをフランスとベルギー(どちらも計画的経腟分娩が一般的)から集計しまして、
「計画的経腟分娩であれば帝王切開の場合と赤ちゃんの予後に差はない」という結論を導き出しました。
つよい🐻❄️
ちなみにこの調査は2006年に行われ、通称「PREMODA trial」と呼ばれています。
日本での逆子の取り扱いは?
…とはいえ、いかにフランスが「下からでもイケそう」というデータを報告したとしても、
世界中のどの国・地域でも計画的経腟分娩や緊急帝王切開ができるわけではありませんし、
妊婦さんやご家族から訴訟を受けた時の対応も国ごとにバラバラなので、
逆子(骨盤位)を経腟分娩するかどうかの方針は全く統一されていません。
例えば、アメリカ(ACOG)を見てみると「骨盤位の経腟分娩技術を持った産婦人科医も減ってるし、できるならやってもいいけど基本は無理せず帝王切開がいいと思うよ」という方針を打ち出しています。

日本の産科婦人科ガイドラインではどうなっているかと言いますと、長ったらしい但し書きが付きまくった上で経腟分娩を選択できる旨が記載されています。
この但し書き、内容的にはまあ納得ではあるのですがあまりにも長ったらしいので割愛します。
結論として、日本でこの令和のご時世にあえて「ウチならできるよ」と標榜する病院は殆どないのが現状ですね🐻❄️
そのため、2010年代に産婦人科医になった私からしてみると、
骨盤位の経腟分娩は「ビデオでなら観たことがある」レベルであり、日本では少しずつ失われつつある技術になってきている感はあります。
さてそんなわけで、現代の日本において正期産(37週)が近付いてきても逆子が直らない場合、どう対応するのかをお話ししていきましょう。
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