全力解説 vol.35「乳児にヤギミルクを飲ませてはいけない理由」

ヤギミルクを勧めまくるインスタグラマーに気をつけよう。
やっきー 2025.05.16
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こんにちは!

産婦人科医やっきーです!

今年からインスタを始めたのですが、あっちの界隈はXに比べてぶっ飛んだ医療デマが多く、

「こんなこと言ってる人が居ますけど本当ですか?」というご質問がしばしば寄せられます。

そして95%くらいデマです。

できれば全てのご質問にお返しをしたいところではあるのですが、さすがに他の執筆作業に差し障るため、

30秒のリールの中にツッコミどころを10個くらい内包した、一般人が摂取すると命に関わるデマ濃度の投稿や、

あまりにもデマすぎて逆に高度なギャグなのではないか?とすら思えるレベルの投稿を厳選し、

Xやインスタで逐一ネタにしております。

そんな中で、インスタやスレッズで暴れ回っているヤバめの自然派助産師が居る、との情報が寄せられました。

(以下、全て同じ助産師による発言)

👩‍⚕️「赤ちゃんにはとにかく母乳が一番!日本の粉ミルク、正直嫌です!

👩‍⚕️「粉ミルクは自然界に存在しない成分を合成して作られています」

👩‍⚕️「ヤギミルクは消化しやすくアレルギーが出にくいのでおすすめです」

👩‍⚕️「牛乳は超高温で殺菌するので死んだ牛乳と言われます」

👩‍⚕️「日本は過度な検診で病気を作り出しているのです」

👩‍⚕️「予防接種を打ちたくない場合、『検討中です!』と言ってやり過ごすのがおすすめです

👩‍⚕️「母乳より粉ミルクを選ぶなんてありえない。かけがえのない我が子なんて大嘘よね」

というわけで、この助産師のうんこの香りに満ちた投稿の数々にデマ医療ウォッチャーやっきーの肩は十分に温まったわけなのですが、

「ホメオパシー」「ワクチンはクソ」「医者はカス」(5・7・5)などの何の真新しさもないデマを流す凡百の反医療アカウントと違い、

この助産師は「粉ミルクや牛乳を執拗に罵倒し、自社のヤギミルクを宣伝しまくるという展開をしている点で他と一線を画しています。

そしてこのヤギミルク(ヤギ乳)問題、私のような漫画オタにはおなじみのアレが思い浮かぶわけです。

出典:百姓貴族 31話

出典:百姓貴族 31話

酪農家出身の漫画家・荒川弘先生の『百姓貴族』で、

ヤギミルクについて「母乳が出ない時にヤギ乳を飲ませる家庭がある」「離乳期の補助食に役立つ」と触れられていました。

果たして荒川先生が描いてたことは本当なのか、

そして前述の自然派助産師の主張がどれくらいデタラメまみれなのか。

というわけで本記事は「乳児にヤギミルクを飲ませてはいけない理由」です。

無料部分ではヤギミルクに関する医学的な考え方について扱い、

有料部分では自然派助産師の実際の投稿をがっつり出していかに可哀想なアカウントかを眺めてみようと思います。

それではいってみましょう🐻‍❄️

***

ヤギミルクの歴史

さてさて、人類とヤギミルクの歴史。

これはなかなか一言では語り尽くせないほど遠大です。何せヤギ乳は牛乳より歴史が古い可能性すらあるので。

そもそも「家畜」の起源自体がヤギだと言われており、およそ1万年前(紀元前8000年頃)に西アジアでヤギが肉や皮をとる目的で飼われたことが発祥とされています。

その後、具体的な年代は不明ながら、ヤギ乳を飲料として利用するようになった…という経緯のようですね。

ここから少し遅れて、紀元前7000~6000年頃の近東~南東ヨーロッパで発掘された土器から牛乳の脂肪分が検出されており、

これが人類最古の「牛乳の利用」ということが判明しています。

しかし、ヤギ乳に比べると牛乳は(特に品種改良の進んだ種で)搾乳量が圧倒的に多く、

チーズやバターなどの加工品にも向いているため、次第に乳飲料・乳製品はウシが席巻していくこととなりました。

あとぶっちゃけヤギミルクは独特な匂いが嫌われる原因にもなりますが、

ヤギミルクの匂いの原因は主に脂肪が分解されることで生じる脂肪酸なので、温度を低く保つと脂肪酸が発生しにくく匂いが抑えられます。

つまり、低温かつ糖や香料で匂いをマスキングできるアイスクリームへの加工などは相性がよろしいわけです🐻‍❄️

また、ヤギという動物自体に目を向けても環境適応力が高く、粗食でウシより育てやすいという特長がありますので、

これはこれでSDGsの観点から見直されたりもしています。

要するに、ヤギミルクも適切に使えばそう悪いもんでもないのです🐻‍❄️

***

代用乳としてのヤギミルク

そんなヤギミルクですが、かつて代用乳(母乳が出ない時に代わりに与えるもの)として使われていた歴史があります。

こちらは1903年にキューバで撮影された写真ですが、孤児院の乳児がヤギから乳を直飲みしていますね。

日本でも戦時中~戦争直後のメチャクチャな物資難においては過酷な環境でも生きられるヤギが重宝された背景もあり、

この時代では乳児へのヤギミルクもしばしば使われていたようですね。

***

その後、1960~1970年代にかけてアメリカでヤギ乳が「消化しやすい」「アレルギーを起こしにくい」「栄養価が優れている」という説が広まり(後述しますがこれらは半分以上間違ってます)、

健康補助食品的な扱いで流行することにもなりました。

つまり元々、アメリカでヤギ乳がブームになったのは大人用のサプリもどきとしてだったわけです。

そうなると必然、良かれと思ってヤギ乳を積極的に乳児に飲ませようとする親も現れます。

***

・栄養面

しかし、例えどれだけ大人のサプリとしての品質が良くとも、動物の乳であることに変わりはなく、

まったくもって人間の乳児用には作られていません。

他の食事で十分に栄養が摂れている状態であれば、ヤギミルクだろうと牛乳だろうと好きに飲めばいいわけですが、

乳児(1歳未満)は文字通り乳を飲むことが前提の生き物なので、人間仕様の乳以外を飲むと栄養バランスは狂いまくります。

というかこの問題は今から50年以上前にすでに指摘されており、

1968年にはヤギ乳には乳児の栄養に必要なビタミンB6、ビタミンB12、葉酸が足りていないとの注意喚起が行われていますし、これらの栄養素は赤血球を作るのに欠かせないため、

1977年にはヤギ乳で育った乳児が病的な貧血を起こしたという症例も報告されています。

その後、アメリカ農務省により、ヤギ乳はビタミンB6・ビタミンB12・葉酸だけではなく、

ビタミンB1・ビタミンC・ビタミンD・ナイアシン・パントテン酸・鉄分などが軒並み不足していることが発表されています。

加えて、タンパク質が母乳の3倍と多すぎるため乳児の腎臓にも強い負担をかけますし、ナトリウム・カリウム・カルシウム・リンも過剰です。

要するに、乳児にそのまんまのヤギ乳(牛乳・ヒツジ乳を含む)を与えるのはディーゼル車をハイオクで満タンにして「軽油より高いからよく走るに違いないぞお!」と喜んでるようなもんです。

母乳・ヤギ乳・牛乳は見た目が似てるだけで役割も成分もぜんぜんちげえのよ🐻‍❄️

***

・乳アレルギー

また、「牛乳にアレルギーがある人もヤギ乳なら大丈夫」という説がよく言われますが、

ヤギ乳と牛乳はアレルギー的に性質がきわめて近く、牛乳アレルギーのある子ども26人のうち24人がヤギ乳にアレルギー反応を起こした報告もあるくらいです。

こうした報告から「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017」でも「ヤギ乳やヒツジ乳は牛乳と強い交差抗原性がある」と記載されており、

結論として牛乳アレルギーの回避としてはヤギ乳は何の役にも立ちません。

***

・消化の良さ

「ヤギミルクは脂肪球の大きさが牛乳の6分の1なので消化に良い」「カゼインの種類が違うので消化に良い」などという話もありますが、

実際のところは微妙で、そういう比較実験が行われたわけではありませんし、消化に良いかどうかは脂肪球やカゼインの種類だけでなく様々な要因で決まります。

そもそも、一般に流通している牛乳は脂肪球を分割して小さくする「ホモジナイズ」という加工をしており、

ホモジナイズした牛乳と普通のヤギミルクの脂肪球のサイズはどちらもほぼ同じか、むしろヤギミルクの脂肪球の方がちょっと大きいくらいです。

出典:日本乳牛協会

出典:日本乳牛協会

***

・乳糖

「ヤギミルクは乳糖が少なく、乳糖不耐症の赤ちゃんに良い」という話もよく言われますが、

牛乳の乳糖は8オンス(約1カップ)当たり12グラム、ヤギミルクは8オンス当たり9グラムです。

つまり「まあ少ないっちゃ少ない」くらいの違いでしかなく乳糖不耐症の人も飲める!と言えるほどの差ではありません。

考えてみれば、乳糖は仔ヤギにとっても仔ウシにとっても大事なエネルギー源なわけですから、乳糖不耐症に影響を及ぼすほど乳糖が少なかったら仔ヤギ死んでまうわ🐻‍❄️

(そもそも論として、通常の乳児については乳糖不耐症のことを考える必要がありません。乳児は乳糖を分解する酵素が成人よりもかなり多く出ているので)

***

・感染症

ついでの話ですが、日本ではそうそう手に入りませんが生乳はヤバいです。

ヤギに限らず、無殺菌のミルクは大腸菌やブルセラ菌、サルモネラ菌などの細菌、その他寄生虫を有しているため乳幼児にとっては死ぬほど危険です。というかリアルに死にます。

オーストラリアでは2014年に、オーガニック信仰のバカ親が3歳の男児に無殺菌の生乳(※食用目的ではなく、化粧品の材料として販売されていた)を飲ませた結果、感染症で死亡させています。

出典:Food Safety News

出典:Food Safety News

以上のことから、アメリカ小児科学会イギリスNHSカナダ政府機関らは揃って「1歳未満の乳児にヤギ乳をあげるのは禁止」と明言しています。

日本ではヤギ乳が全く一般的ではないので、わざわざヤギ乳に特化した声明は出していませんが、牛乳に関しては厚生労働省から「飲用として与える場合は1歳を過ぎてからが望ましい」と発表されています。ヤギ乳も理屈上は同じ扱いです。

ここまで世界各国が足並み揃えて禁止することってあんま無いぞ?🐻‍❄️

***

というわけで、『百姓貴族』のヤギミルクに関する記述は90%くらい間違っています。

出典:百姓貴族 31話

出典:百姓貴族 31話

「アレルギーが少ない」
⇒全くの無根拠。牛乳アレルギーが出る子はヤギ乳でもほぼアレルギーが出る。

「栄養豊富」
⇒足りてない栄養分・過剰な栄養分が混在してるので、一概に「栄養豊富」とは言えない。

「母乳が出ない時にヤギ乳飲ませる」
⇒大昔の話。栄養成分がまったく乳児用ではないので現在は絶対にやったらダメ。

「離乳期の補助食にも役立つ」
⇒いくつかの条件を満たせば無しではない。離乳食にごく少量使う程度ならまあアリ(材料として大さじ1~2杯程度混ぜるなど)。哺乳瓶でグビグビ飲ませるようなやり方はダメ。

念のため言っとくけどアレよ?わし荒川先生の作品めっちゃ好きだからね?🐻‍❄️

ハガレンのイズミ師匠が失った臓器をガチ考察する産婦人科医はたぶん私くらいのもんじゃよ。

これからも『百姓貴族』楽しみにしております。

***

Bubs(バブズ)のヤギ由来粉ミルクについて

また、本記事を書くにあたって多く寄せられたご質問が、

オーストラリア発の乳幼児用粉ミルク・ベビーフードなどを取り扱う企業「Bubs Australia(バブズ・オーストラリア)」が出しているヤギ由来の粉ミルクに関するものです。

Bubsはオーガニック信仰の強めの人から支持されており、中でもよく取り沙汰される商品が、

ヤギミルク由来の成分から作られた粉ミルク"Easy-digest Goat Milk Infant Formula"です。

出典:Bubs Australia

出典:Bubs Australia

これについては上記の「ヤギの乳そのまんま」ではなく、「ヤギの乳を原料にして栄養分を調整して作った粉ミルク」であり、

実際にオーストラリア・ニュージーランド食品基準(FSANZ)で乳児用の粉ミルクとして承認されている品なので、

乳児に飲ませること自体は…まあ、大丈夫です。

ただ、日本政府による認証を受けていないため、国内で一般的に流通している粉ミルクほどの品質保証はされていません。これを飲ませて不測の事態が起きても公的機関は特に対応をしてくれません。

そんなBubsの販売サイトでは「乳糖が少ない」「アレルギーが気になる方にオススメ」など良いことばかり書いてますが、

乳児について乳糖不耐症を考える意味はほぼありませんし、

ヤギミルクにアレルギーを抑える効果なんぞひとつもありませんし、

「86%の乳児が消化器系の問題を抱えていて」という記述も全く無根拠です。

一応、オーストラリア・ニュージーランド食品基準(FSANZ)の承認を得ているとはいえ、

こういった医学的に妥当性の低い記述を山ほど載せてしまう点や、

日本国内の承認を受けていない事実を鑑みると、

ヤギミルクそのまんま飲ますより万倍マシなだけで、わざわざコレを選ぶ意味は特にありません。

普通に日本国内の粉ミルクを使いましょう。Bubsより安いし。半分くらいの値段だし。

やっきー家でよく使ってたのは明治さんの『ほほえみ』です。

(クリックでAmazonに移動します)

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なお、日本国内で「乳児に飲ませても大丈夫」という認可を得た商品は『特別用途食品』のマークや『乳児用調製粉乳』の記載があるので、

気になる方はこれをチェックしてみてください。

出典:消費者庁

出典:消費者庁

***

例の助産師の実情について

それではここから満を持して、

冒頭でお話ししたうんこの香りがする助産師について深掘りしていきましょう。

彼女は粉ミルクのことをアホみたいに貶し、なおかつインスタやスレッズで粉ミルクで育児中のお母さんを煽り散らかすという反社会的行為を熱心に行う困ったさんです。

薄めた牛乳に砂糖をぶち込んでたレベルだった19世紀末とは違い、今どきの人工乳は凄まじい企業努力によって母乳に限りなく近いものへと超進化を遂げています。

母乳の素晴らしさについては否定しませんが、母乳が出なけりゃ人工乳でまったく問題ないのです。少なくともヤギミルクを乳児に与えるよりは1兆倍マシです。

こういった粉ミルク・人工乳の歴史については過去記事「母乳に関する俗説を検証しまくる記事」でも解説しています🐻‍❄️

(クリックで記事に移動します)

(クリックで記事に移動します)

***

てなわけで、ここからはさらに踏み込んだ話です。

このうんこ助産師のビジネスの実情がどうなっているのか、外から手に入る情報から可能な限り推測していきましょうか🐻‍❄️

ここから先のサポートメンバー限定部分では思いっきり実名を出してバカにしていきましょう。

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