全力解説 vol.39「腟トレって意味あるの?」

こんにちは!
産婦人科医やっきーです!
まず、今夏に出版予定の書籍の進捗状況について。
最近の経過はこんな感じです。
5月21日 本文の全原稿アップ
⇒これを元に編集さんが「初校組」と呼ばれる1回目の組版を作成
6月05日 初校組を受け取り
⇒自分で書いた原稿なのに直すところがありすぎて血を吐きながら修正
6月10日 初校組を全てチェックし、返送
⇒これを元に編集さんが「再校組」と呼ばれる2回目の組版を作成開始
再校組が届くまでの間にニュースレターとnoteを死ぬほど書くことにする
6月13日 ニュースレター「なぜフェムテックはうさんくさいのか?」更新(7700字)
6月14日 ニュースレター「4大うさんくさフェムテックのエビデンスを検証する」更新(11000字)
6月18日 note「ブログという副業が抱える構造的欠陥」更新(18000字)
6月19日 書籍の再校組が到着
⇒初校組での修正が多すぎて細部や全体のバランスが変になっていたためやはり大量修正
6月21日 書籍に関するまあまあでかいちゃぶ台返しが発生(詳しくは言えるようになったら言うかも)
⇒以降、これに関連する作業も爆増
6月25日 再校組の最終締め切りギリギリで無事提出
⇒歓喜の発狂

特にヤバい数日間は平均睡眠時間4時間でどうにか乗り切ってきましたが、
その甲斐もあり、読みやすさと実用性を兼ね備えた良い本になったと自負しています。
再校組の返送によって私が担当する作業の山場は超えましたが、とはいえまだまだやることは山積みです。
予約特典も現時点で3記事くらいは書く予定なので、既に発売直前はデスマーチ確定です。

7月の予約開始をお待ちくださいませ。
詳しく決まり次第、このニュースレターやX・note・インスタ等でお知らせいたします🐻❄️
さて、前回の記事では「4大うさんくさフェムテック」こと
「デリケートゾーン用ソープ・オイル」「布ナプキン・オーガニックコットンナプキン」
「骨盤底筋トレーニンググッズ」「腟エネルギーデバイス(レーザー等)」
のエビデンスを解説してきたわけですが、これを受けてこんなコメントを頂きました。
🤰「腟トレ・腟トレグッズって意味あるんですか?」
たしかに。🐻❄️
そこ触れてませんでしたね。
インスタ等で「腟トレ(ちつトレ)」で検索して出てくる怪しげな連中(たいてい何かの商材売ってる)の発信を見ると、
腟トレで痩せる、下腹が出なくなる、姿勢が良くなる、代謝が改善する、生理痛やPMSが改善する、セックスの質が向上する、女性ホルモンが出て美しくなる等、
どんだけ万能な健康法やねんと言いたくなるほどの効果が謳われています。
薬機法的にアウトな投稿が目につくこの人とか。
(具体的にどうアウトなのかは後述します)

https://www.instagram.com/sarumi___tore/
それにしても、こんなんが商売として成り立つのであれば、ちんちんを引き締める「ちんトレ」によって男性ホルモンの分泌を促すことで痩せるとか背が伸びるとかイケメンになるとか適当なこと言いまくればインスタで商材が売れ放題かもしれません。ちょっとインスタアカウント作ってくる。
さてさて、このクソ怪しい連中が謳う「腟トレ」と、アダルトグッズに片足突っ込んでる謎の物体「腟トレグッズ」に果たして意味はあるのか。
本日のテーマはこのあたりです🐻❄️

本題に入る前に
この記事を書く前に「腟トレ」について色々とリサーチをしていたところ、
あまりにも禍々しいオーラを放っている動画がYouTubeにアップされているのを発見しました。
それがこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=s6GTnd0JnvA

https://www.youtube.com/watch?v=s6GTnd0JnvA
??????🐻❄️🐻❄️🐻❄️
私の好きなマンガ『HUNTER×HUNTER』にて、
敵地に単独潜入したキャラが敵の禍々しすぎるオーラを目の当たりにして精神を折られ、戦線離脱してしまうシーンがあったわけですが、
この動画を観た時の私がそれでした。

出典:HUNTER×HUNTER 255話
気を取り直してこの動画について調べてみたところ、
この頭おかs…斬新なトレーニングに勤しんでいらっしゃる女性は、ロシアの体操選手であるタチアナ・コジェフニコワさん。
彼女はダンベルを結び付けたボールを腟内に入れ、ダンベルごと持ち上げることによってウエイトトレーニングをしている模様です。すごーい(棒)
『The Register』にて彼女が答えたインタビューを意訳しながら抜粋すると、
だいたいこんな感じ。
―――なぜ、このようなトレーニングをしているのですか?
出産のあと、陰部の筋肉が信じられないほど弱くなっていたのを感じたわ。
中国の道教の本で、昔は腟にボールを入れてトレーニングをしていたという話を読んだの。
それを実践し始めたのがきっかけよ。
―――どのような効果があるのでしょうか?
1日5分、腟を鍛えるだけでいいの。
1週間も経てば、貴女はベッドで男性に極上の快感を与えられるようになるわね。
―――貴女が腟内に入れているボールは?
ガラス玉よ。でも、ただのガラスじゃないわ。
ヴェネツィアのムラーノ島で作られた最高級品よ。
―――彼女には気品があり、決して妥協を許さないのであった。―――
🐻❄️やかましいわ。
なお、この変な女性には類似品がおりまして、
セックスとコミュニケーションのコーチを自称するキム・アナミさんは自称「腟ウェイトリフティング」を実践している画像をたくさん投稿しています。

https://www.instagram.com/p/zXzOjFyeEJ/
医学的エビデンスの話をする前に、彼女らに対する私見を述べさせて頂くならば、
前々回の記事「なぜフェムテックはうさんくさいのか?」で申し上げた通り、フェムテックやフェムケアの笠を着てたらどんな下品なことをしてもOK的な現在の風潮は控えめに言ってカスであり、
「やっぱフェムテック・フェムケアってうさんくせーなー」というイメージに繋がるため女性の健康にはむしろマイナスであるとすら考えているのですが、
「腟からピンポン玉を発射できる」「腟でビール瓶を開けられる」と豪語する彼女らはその最たるものと言っても良いかもしれません。
もっとも、18時間で60,000ルーブル(約11万円)のワークショップを開催したり、
「腟カンフー」という謎サロンの入会費が8週間で700~1,000ドル(約10万~14万円)だったりすることから察しが付きますが、
腟でダンベル吊ったりトロフィー吊ったりするアホなパフォーマンスは単なる集客手段に過ぎません。
目立つパフォーマンスで万単位のフォロワーを付けて、それに引っかかるごく一部の人間から高額な会費を巻き上げるのが彼女らのビジネスモデルです。
彼女らにとって女性のヘルスケアなんてどうでも良いのですが、フェムケア・フェムテックの存在が彼女らに大義名分を与えてしまい、結果このような地獄ビジネスへと繋がっているわけです。
さすがにここまで振り切った詐欺師は稀ですが、「腟を整えて健康になろう」的な輩がやってることの正体はだいたいそんな感じです。

腟トレって何?
というわけでここからが本題。
「腟トレ」がどのような効果を持っているのか、医学文献を紐解きながら解説していきましょうか🐻❄️
…と言いたいところですが、実のところ「腟トレ」「腟トレーニング」を指す医学用語は存在しません。
そのため、どんなに意味のなさそうな指導をしたとしても「これが腟トレでござる」と主張すればそれは腟トレであり、
自力で腟を引き締める運動をしようが、謎のボールを腟に入れようが、ダンベルやトロフィーを持ち上げようが、腟でクルミを割ろうが個人の自由なわけですが、
まあ強いて言うならば、彼女らがやっている「腟トレ」は「腟やその周囲の筋肉を引き締める運動」であり、
医学的に確立したトレーニングの中で最も近しいものを挙げるとするならば「骨盤底筋トレーニング」になります。

骨盤底筋トレーニングの代表格が「ケーゲル体操」と呼ばれるもので、
尿道や腟や肛門を引き締めては緩める、を繰り返すという、自宅でもタダでできる有効なトレーニング手段として産婦人科医学的にも確立されています。
ただ、前回の記事でも解説した通り、
骨盤底筋トレーニングの有効性が高いエビデンスで実証されているのは産後や加齢に伴う尿失禁対策や便漏れの予防、骨盤臓器脱の改善くらいしか存在せず、
それ以外の効果・効能については現状「そういう説もある」の域を出ません。
(参考)
Chantale Dumoulin et al. "Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women" Cochrane Database Syst Rev. 2018 Oct 4;10(10):CD005654.
ACOG "Pelvic Support Problems"

この手の話になるとよく出てくる主張が「腟トレによって子宮や卵巣の血流が改善し、女性ホルモンが出る」というものですが、
直接的に女性ホルモン(エストロゲン)の分泌をコントロールしているのは脳にある視床下部・下垂体です。
PCOSなどの特殊な例を除き、女性ホルモンの分泌機構において卵巣は脳の指令を受け取っているだけの下請け業者に過ぎません。卵巣の血流量を増やしたところで影響は誤差です。
腟トレで女性ホルモンが改善する説を他のものに例えると、「新幹線の本数を倍に増やせば人の流れも倍になるので日本の景気も2倍よくなる」みたいな感じであり、
内分泌生理学的には起こりえないデタラメです。うんこです。
さて、そんな腟トレの手法にはオリジナリティがけっこう出るところでして、
何の効果もなさそうな腟トレ風の何かを指導している奴もいれば、腟内に入れる謎のボールを売ったり、
何ならガッツリ法律に反してる商品を出してる企業すら珍しくないのがこの腟トレ界隈という魔境です。
というかマトモな骨盤底筋トレーニングなんて「ケーゲル体操 やり方」でググれば終わりなので、それ以外の医学的効果が立証されていないオリジナルトレーニングを採用する意味は全くありません。
(ここからは具体的な人名・企業名・商品名を挙げながら解説していきますので、メンバー限定とさせていただきます)
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績
