メンバー限定記事 第4回「不妊治療だと双子になりやすい?」
読者の方からご質問を頂きました。
🤰「自然妊娠で二卵性双胎を授かりましたが、かなりの頻度で『双子ってことは不妊治療していたの?』と聞かれます。二卵性双胎は、不妊治療の方が多く自然妊娠は少ないのでしょうか?」
「双子」と「不妊治療」。
これはある意味、切っても切れない関係にあります。
『双子ってことは不妊治療していたの?』という質問者様の周囲の方からのご意見は少々短絡的ではありますが、
丸っきり的外れとも言えないところでもあるのです🐻❄️
不妊治療が発展の兆しを見せ始めた1980年代から、産婦人科学会が声明を出した2000年代に至るまで、多胎妊娠の割合はずっと増え続けていましたし(現在はやや減少傾向)、
不妊治療を長く行っていてなかなか着床せず、受精卵(胚盤胞)の「2個戻し」をやってみたら2個とも着床して双子になったというケースは枚挙に暇がありません。
(『なんもわからん双子育児』を描かれた漫画家の王嶋環先生がまさにこのパターンですね)
出典:なんもわからん双子育児 1話
そんなわけで、本日は不妊治療と多胎妊娠の関係性について、
その歴史ごと全て振り返って考えてみましょう🐻❄️
膜性について
まずは双子の膜性の話からです。
いやいきなりわけわからん単語が出てきたぞとお思いかもしれませんが、
「膜性」というのは簡単に言えば「子宮の中の環境」です。
「MD双胎」とか「DD双胎」といった区分のことですね。
出典:病気がみえるvol.10 産科(第3版)
膜性について簡単に説明すると、
最も多いDD双胎(二絨毛膜二羊膜双胎)は2人の赤ちゃんがそれぞれ自分用の部屋を持っていて、自分用の胎盤もある、といった状態です。
兄弟で自分専用の部屋もあり、ご飯もそれぞれ用意されている、といったイメージですね。
これに対し、MD双胎(一絨毛膜二羊膜双胎)は赤ちゃんそれぞれが自分用の部屋を持っているものの、胎盤はひとつしかない、という状況です。
「ご飯を二人分渡すから二人で分けて食べてね」といったようなイメージですね。
そんなMD双胎はDD双胎に比べてリスクが圧倒的に高く、
「双胎間輸血症候群」などの胎盤がひとつしかないことによる弊害が生まれます。
そういったあたりを見逃せないため、産婦人科医としてもMD双胎の管理は緊張感が高まります。
最後にMM双胎(一絨毛膜一羊膜双胎)と呼ばれるパターンもあります。
これはひとつの胎盤を共有し、赤ちゃん同士を仕切る部屋もないというものですね。
MM双胎はただでさえ全体の1%しかいない双子の中でもさらに1%の割合となっており、要するに1万分娩のうち1組程度という非常に稀なパターンです。
MM双胎はMD双胎以上にハイリスクで、赤ちゃん同士のへその緒が絡まり放題になり、へその緒を流れる血液が途絶えて酸素が届かなくなり、窒息死するリスクがあります。
上記のうち、DD双胎は一卵性の場合も二卵性の場合もあり得ますが、
MD双胎・MM双胎は必ず一卵性になります。
我々産婦人科医が双子の妊婦さんを診察するとき、
一卵性か二卵性かどうかは妊娠管理を考える上で特に問題にならないため、
もっぱらこの膜性だけを判断しています。
強いて言えば、MM双胎やMD双胎であればほぼ100%一卵性と言えますし(二卵性も無いことはないですがレアです)、
双子の性別がそれぞれ別の場合もほぼ100%二卵性と言えます。
(一卵性なのに性別が異なる「異性一卵性双胎」という例もありますが、特例中の特例です)
双子の発生率
そんな双子の発生率ですが、二卵性双胎は地域や民族により発生率にかなりの差が出ます。
自然妊娠における二卵性双胎の発生率は、日本人の場合は0.6~1.0%ほどとされていますが、
白人だとおよそ0.8~1.2%くらい、黒人だと2%を超えると言われています。
二卵性双胎は一度に複数個の排卵が起きるかどうかによるので、
ホルモンや体質の関係で一度に複数個の排卵が起きやすい人ほど二卵性双胎が発生しやすいわけですね。
これに対し、一卵性双胎は人種間で発生率にそれほど大きな差が出ないとされ、
日本人であっても白人や黒人であっても、基本的に一律で約0.4%となっています。
自然妊娠において一卵性双胎が起きるメカニズムはたまたま起きるかどうかでしかないので、人種や体質の差はほとんど出ない…というのが通説になっています。
ただしこれは近年になって見直される動きがありまして、
たとえばブラジル南部のカンディド・ゴドイ村(リーニャ・サンペドロ地区)は二卵性・一卵性ともに発生率がズバ抜けて高く、
この村は人口7000人ほどの小さな集落ですが、1990~1994年の調査では双子の発生率が全妊娠中の10%にのぼり、二卵性と一卵性がほぼ半分ずつだったことが確認されています。
ブラジル全体から考えても双子の発生率は約5.5倍という異常な数字であり、カンディド・ゴドイ村は通称「双子の村」として有名になっています。
出典:maphill
その後の調査により、カンディド・ゴドイ村で双子が多いのは遺伝子に原因がある可能性が指摘されており、
p53という遺伝子に関連したいくつかの部分に変異が確認されています。
なお、このp53は癌を抑制する遺伝子として知られ、カンディド・ゴドイ村における双子の母親は癌の発生率が3倍にのぼるなど、たくさん産まれて良いことばかり…とも言いがたいようです。
参考文献
他にもインドやヨルダンなどの一部の村に一卵性双胎の発生頻度が高い地域が存在することが確認されていますし、
人間以外の動物に目を向けるとココノオビアルマジロが哺乳類で唯一、偶発的にではなく確実な一卵性の多胎を産む(基本的にこのアルマジロは一卵性の四つ子を出産する)ことで知られています。
こういった研究が進むにつれ、
「今まで一卵性双胎は人種差が無いと言われてきたけど、もしかして遺伝子とか人種の影響も多少あるんじゃないの?」
という説も浮上してきていますが、いかんせん一卵性双胎の症例数自体が少ないので、なかなか研究は進みづらい状況です🐻❄️
双子以上の呼び方
ここでちょっとした豆知識。
一度に二人の赤ちゃんが同時に妊娠する、いわゆる「双子」のことを医学的には「双胎」と呼びますが、
三つ子の場合は「品胎」と呼びます。
「品」が同じパーツ3つで構成された漢字だからですね。
他にもそういう漢字はあるのに何で「品」なの?という気もしますが、
「轟胎」とか「磊胎」とか「犇胎」に比べれば確かに「品胎」が一番マシか🐻❄️
ちなみに私は過去に4ケタ人数の妊婦さんを診てきて、双胎はざっくり20~30例くらい診てきましたが、私自身が直接診た中で品胎の症例は1例しか経験しませんでした。非常に珍しいです。
(私があまり高度なNICUの施設がある病院にそれほど長期間居なかったこともありますが)
では四つ子のことを何と呼ぶかというと、「要胎」と呼びます。
「要」の上の部分(「おおいかんむり」と呼ぶらしいです)に四角が4つ入ってるのが理由です。
出典:るろうに剣心 237話
おおいかんむりが使われている漢字なら何でもよさそうに感じますが、
これも「覇胎」とか「票胎」とかに比べると「要胎」が一番マシな気がします🐻❄️
さらにさらに、五つ子の別名も決まっておりまして「周胎」と呼びます。
これまた「周」の字に四角が5つ含まれてるから…というのが由来ですが、ちょっと苦しくなってきましたね🐻❄️
出典:五等分の花嫁 1話
なお、六つ子以上の別名は特にありません。
10の68乗である「無量大数」や、10のマイナス24乗である「涅槃寂静」などのどう考えても使わんだろと言いたくなる単位にも名前を付けちゃう漢字文化圏にしては、
五つ子で終わるのは妙に潔いですね。
それか単に同じパーツが6つ入った漢字が思いつかなかったのか🐻❄️
出典:おそ松くん 電子書籍版 13巻
多胎妊娠だと子宮の中に多くの赤ちゃんがいる関係上、どうしても早産になりやすいです。
というより、多胎妊娠で分娩予定日(妊娠40週0日)までもつ例はほとんどありません。
具体的にどのくらい早く産まれるかと言いますと、
おおよそ一人増えるごとに4週ずつくらい早くなる、と考えると分かりやすいです。
双胎なら40週より4週早くなって36週前後くらい、
品胎ならさらに4週早くなって32週前後くらい、
要胎なら28週前後くらい、といった感じですね🐻❄️
要胎以上は状況によりけりなので、必ずしもこの式に当てはめるのは難しいですが。
ちなみに過去の多胎妊娠の中で、産まれた赤ちゃん全員が生存している最多の妊娠例はまさかの九胎となっており、
2021年5月1日、マリに住む25歳のハリマ・シセさんが妊娠30週で九人の赤ちゃん(男児4人・女児5人)を出産したそうです。人体ってすごい。
出典:Techinsight
不妊治療と多胎妊娠
基礎知識はこのあたりにして、いよいよ本題に入りましょう。
「不妊治療だと多胎妊娠が増えるのか?」というテーマについてです🐻❄️