メンバー限定記事 第2回「赤ちゃんが大きすぎると言われた」
読者の方々からご質問を頂きました。
🤰「赤ちゃんの頭がずっと大きめに出ています。33週の健診では4週分くらい大きめに出ました。お腹や足の大きさはそこまでは大きくなく、推定体重は正常範囲内で上の方です。気を付けることはありますか?」
🤰「第一子が4000g近い大きめの子でした。妊娠中の体重増加は正常範囲で血糖値等も問題はありませんでした。お腹が張るのであまり運動ができませんでしたが、このような生活が胎児の成長に影響したのでしょうか?」
🤰「私の妊娠前のBMIは18.5未満でしたが、総合病院の先生から『学会が推奨している12~15kgの体重増加はリスクが大きいので10kgを目指そう』と言われました。その通りに頑張ってみたのですが、予定日を1週間超えたにも関わらず低出生体重児でした。体重制限をしすぎたのでしょうか?」
今回は赤ちゃんの大きさに関するご質問を3つ、ピックアップしてみました。
お母さんにとって「赤ちゃんの大きさ」は最も気になる事柄のひとつですから、これに関する話題はしばしば挙がりますね。
ただまあ、赤ちゃんの大きさに関しては一般論的な話はできるものの、
細かい部分になるとぶっちゃけ「個人差」があまりにも大きな要素を占めるので、
なかなか返答に苦慮する回答も多いのです。
てなわけで今日はサポートメンバー様限定で「赤ちゃんの大きさ」「推定体重」に関する考え方を解説していくのですが、
せっかくなので赤ちゃんの体重に関する基礎的な考え方については全ての読者様が読めるようにしておきます🐻❄️
推定体重について
さてさて、まずは基礎からですね🐻❄️
妊婦健診の時になんかエコーをクリクリ当てて機械をポチポチやったら推定体重なるものが出てきます。
あの推定体重ってやつはどうやって算出しているのでしょうか?
中には産婦人科の先生からエコーを受けながら説明を受けられた方もいらっしゃるかもしれませんが、
結論から言うと、「頭の横幅(BPD)」「お腹の周り(AC)」「足の骨の長さ(FL)」の3つを使って推定体重(EFW)を算出しています。
出典:看護roo!
これら3つのデータを計測した上で、
この計算式に当てはめると推定体重(EFW)を算出できます。
この計算式ですが、産婦人科医は医局に入ると同時にこの式を叩き込まれ、
いかなる数値が出たとしても瞬時に推定体重を算出できるよう、最初のうちは1日2~3時間ほど計算ドリルを解いて訓練しますので、
全ての産婦人科医は暗算できます。
嘘です。エコーの機械が自動で計算してくれます。
この測定法はそれなりの精度で推定体重を算出できるものの、
どんなに正確に計測したとしても10%くらいの誤差は出てしまいます。
(たとえば推定体重3000gと出た場合、実際の体重には2700~3300gくらいの幅があります)
また、「そもそも赤ちゃんの向きや姿勢の影響で正確に測ることが難しい」というパターンも珍しくなく、
逆子(骨盤位)や横位、双子などに関しては誤差はさらに広がりやすくなります。
よって、「誤差10%として、この赤ちゃんの体重はこれくらいかなー」と想定していたら実際はその遥か上(またはずっと下)を行っていたというケースも珍しくありませんし、
私が知る限りトップクラスの胎児超音波検査の技術を持った産婦人科医の某先生も「体重は未だに間違える」と仰っていたので、なかなか正確な体重の推定というのは難しいものがあります。
なんなら私自身、自分の第一子の推定体重を激しく間違えました。(かなり大きめだと思っていたら平均くらいだった)
推定体重は難しいのであります🐻❄️
推定体重をどう評価するのか
まあそんな感じで「誤差はどうしても避けられない」ということを織り込みつつ推定体重を算出するわけですが、
次はこの推定体重が「同じ週数の赤ちゃんの平均値とどのくらい離れているか」を評価します。
ここで使うのが「SD(標準偏差)」ですね。
例えば「+1.5SD」であれば、同じ週数の赤ちゃんを体重の大きい順に100人並べた時、上から7人目ぐらいの大きさであることを表しています。
(標準偏差はアホみたいに面倒くさい統計的手法を用いて算出する数字なので「こういうもの」だと覚えましょう)
週数ごとの推定体重の平均値とSD(標準偏差)の早見表がこちらです。
出典:日本超音波医学会
この表は、医局に入ると同時に叩き込まれるので全ての産婦人科医は暗唱でき(略)
嘘です。エコーの機械に入っているので自動で表示してくれます。
さて、推定体重を考える時に「ちょっと大きすぎるor小さすぎるかもしれない」とする基準値が、「+1.5SD」と「-1.5SD」となります。
+1.5SDを上回っていたら「大きすぎるかも」、-1.5SDを下回っていたら「小さすぎるかも」と考えます。
したがって「〇週間分くらい大きいor小さい」という表現は適切ではありません。
例えば「今は36週だけど、34週相当の大きさしかない」「同じ週数の子の平均値から比較すると1週間分くらい小さい」といった表現が使われたりしますが、これは医学的には間違った評価方法です。
(しかし、この表現を使う産婦人科医はけっこうたくさん居ます。言ってる本人はあまり気にしてないと思うのですが、現在の週数と乖離してたら妊婦さんが不安がるし医学的な意味もないのでやめてほしいところ🐻❄️)
あくまでも標準偏差(SD)を使って、その週数の平均的な胎児と比べてどれくらい逸脱しているかがキモです。
赤ちゃんが大きい場合(+1.5SD以上)の考え方
まずは「大きすぎるかも」の基準である+1.5SD以上について。
この場合、(週数の間違いなどを除くと)考えられるパターンは主に3つですね。
「妊娠糖尿病などの疾患が隠れている」か、
「個人の体質」か、
「計測の誤差で大きく出てしまっているパターン」か。
1つ目の「妊娠糖尿病などの疾患が隠れている」の場合、
週数やそれまでの経過にもよりますが、75gOGTT検査(炭酸の砂糖水を飲んで血糖値を測る検査ですね)などを検討する必要があります。
あるいは、もともと妊娠糖尿病が分かっていたり、妊娠前から糖尿病を発症しているケースもあります。
この場合は血糖値のコントロールがきちんとできているか確認する必要があるかもしれません。
2つ目の「個人の体質」、何だかんだ言って一番多いのはこれかもしれません。
大人にも体格の小柄な人と大きい人がいるように、赤ちゃんにだって当然、個人差はあります。
本人の体質もありますし、両親の遺伝も少なからず影響するでしょうね。
3つ目の「計測の誤差で大きく出てしまっているパターン」、これがある意味最も避けられないケースです。
なんせ私自身が実子の計測でやっちまってますから。
推定体重を出すのは…難しいんだ…🐻❄️
そしてこんな感じで赤ちゃんが大きい場合、しばしば妊婦さんが自己判断で「ご飯を控えよう」と判断をすることがあるのですが、
妊娠中の必要以上の食事制限はむしろ有害なので絶対にやめましょう。
自己判断で行われる食事制限というのは、上記のような「個人の体質」と「計測の誤差で大きく出てしまっているパターン」の可能性を丸っきり無視してしまっています。
食事制限に意味がある場面は、妊娠糖尿病と診断され、血糖値の管理がなされた上で医師・栄養士の管理のもとで行われる食事制限だけです。
赤ちゃんが小さい場合(-1.5SD以下)の考え方
次に、「小さすぎるかも」の基準である-1.5SD以下について考えてみると、
(週数の間違いなどを除いて)考えられるパターンは主に3つですね。
「何らかの問題があり大きくなれない」か、
「個人の体質」か、
「計測の誤差で小さく出てしまっているパターン」か。
「大きすぎる」という状況をきたす疾患が妊娠糖尿病などの糖代謝異常疾患ほぼ一択だったことに比べると、
「小さすぎる」という状況をきたす疾患はけっこう多岐にわたる上、
見逃してはいけない場面がしばしばあるので産科医療的には緊張感が上がります。
どういうことか、解説しましょう🐻❄️
なお、「個人の体質」と「計測の誤差で小さく出てしまっているパターン」に関しては先ほど挙げた内容とほぼ同じなので、ここの説明は割愛します。
「小さすぎる」という状況をきたすものを列挙していくと、
母体の妊娠高血圧症候群、感染症、腎疾患、甲状腺疾患、自己免疫疾患、心疾患、喫煙・アルコールなどの生活習慣、何らかの薬剤、母体体重の増加不良や妊娠前からの痩せ…などがあり、
中には放置すると病状が進行してしまうものもあります。
しかも、赤ちゃんが小さすぎると「赤ちゃんの元気がない場合」もしばしばあるため、
赤ちゃんが元気かどうかのチェックも欠かせません。
というわけで、要するに赤ちゃんが小さいと様々な状況を想定する必要が出てくるのです。
結局、何も異常が見つからず「赤ちゃん自身の生まれつきの体格」としか言いようがない場面も多いのですが、
「個人差かな」「超音波の誤差かな」だけで済ませてしまうにはあまりにもリスキーなわけですね。
…と、ここまでが前置きで、
ここからようやく冒頭のご質問「赤ちゃんの頭が4週ぶん大きいと言われたけど何に気を付けるべき?」「赤ちゃんが巨大児だったのは生活習慣のせい?」「赤ちゃんが小さかったけど妊娠中に体重制限を厳しくしたせい?」について超ぶっちゃけ回答を交えてお答えしていきます。
ここからはサポートメンバー様限定となります🐻❄️