全力解説 vol.19「次の妊娠までの期間ってどれだけ空けたらいいの?」完全版

医者どころか学会でさえ意見の違う「〇ヵ月あけたらいいよ」の判断方法
産婦人科医やっきー 2024.11.07
サポートメンバー限定

読者の方からご質問を頂きました。

🤰「第2子の妊娠を早めにしたいのですが、出産から何ヵ月あけたら妊活しても良いですか?」

🤰「前回の出産は帝王切開だったのですが、主治医から妊活は1年あけるよう指示されました。SNSでは1年半や2年あけている人もいるようですが、基準はあるのですか?」

産後、次の妊娠までどのくらいの間隔をあけるべきか問題。

これはけっこう難しい問題でして、なかなか一言で答えるのが難しいのです。

それでもあえて一言で答えるならば「少なくとも半年以上はあけるのがお勧め」という結論になりますし、私も多くの妊婦さんにはそのように伝えています🐻‍❄️

しかしこの回答は「エヴァンゲリオンってどんなアニメ?」という質問に対して「シンジ君がロボットに乗って怪物と戦うアニメだよ」と答えてるようなレベルでして、

要するに肝心な部分は何も伝えられていません。

ですが、ここで「そもそもファーストインパクトによって第2の使徒が…」などと話し始めてもポカン( ゚д゚)とするほかないのと同様、

「産後の妊娠間隔についてはWHOや各国の見解に相違があり…」と話してもやはりポカン( ゚д゚)となりますし、1から10まで説明していると外来が終わりません。

そんなわけで、以前にXで産後の妊娠間隔に関する回答をしまして、ぼちぼちバズったのですが、

実はあれは誰もが読めることを前提とした話しかできておらず、私の意見が全て反映されているわけではないのです。

「半年以上あけるのがお勧め」という話はあくまでも基礎中の基礎の部分にすぎません。

そこから先の判断が非常に難しいのです。

それでは本日は「次の妊娠までの期間ってどれだけ空けたらいいの?」というご質問に対し、

以前にXで回答した内容の完全版(無料読者様にも伝えられる範囲)、

そしてサポートメンバー様限定でしかお伝えできない私の意見について、具体例も交えつつお話ししていきましょう🐻‍❄️

***

X回答の完全版

実のところ、「産後にどれだけ時間を置くべきか」は産婦人科医によっても意見がバラバラなので、

SNSで次の妊娠期間に関する話に差が生まれるのもやむを得ない話です。

ではなぜ意見がバラバラなのかと言いますと、我らの総本山こと日本産科婦人科学会が次の妊娠期間に関する指針を打ち出していないためです。なんてこった🐻‍❄️

そのため、日本では「1年」と言っても「いつでもいいよ」と言っても日産婦の意見に反することはありません。(そもそも日産婦が言及していないから)

では次に、世界的にはどのような対応になっているのかを見てみましょう。

いきなりですが、我ら医療従事者のトップオブトップオブトップである世界保健機関(WHO)の見解からいってみます。

医学知識の集合体と言っても差し支えないWHO様はどのような方針を打ち出しているのでしょうか。

***

WHOが出しているレポート「Report of a WHO technical consultation on birth spacing」を読んでみると、

"After a live birth, the recommended interval before attempting the next pregnancy is at least 24 months in order to reduce the risk of adverse maternal, perinatal and infant outcomes. "

(次の妊娠を試みるまでの期間は、母児のリスクを考えると少なくとも24ヵ月あけることが望ましい。)

"To summarize, birth-to-pregnancy intervals of six months or shorter are associated with elevated risk of maternal mortality. Birth-to-pregnancy intervals of around 18 months or shorter are associated with elevated risk of infant, neonatal and perinatal mortality, low birth weight, small size for gestational age, and pre-term delivery."

(出産から妊娠までの間隔が6ヵ月以下だと妊産婦死亡リスクが高くなる。約18ヵ月以下の場合も、新生児死亡率、低出生体重児、早産などの母児に関するリスクが高くなる。)

と記載されています。

要するに、WHOの見解としては「6ヵ月以下は非常によくない」「18ヵ月以下でもリスクは高い」「できれば24ヵ月が推奨」となっているわけですね。

しかし。

このWHOのレポート「Report of a WHO technical consultation on birth spacing」ですが、

これは2005年にジュネーブで行われた会議をもとに書かれたものであり、その参考となるデータもだいたい2000年前後のものに限られています。

というか今ではこの文献にアクセスしようとしてもWHOのホームページ内でさえリンク切れになってる始末です。

上記の文面も、わざわざウェブアーカイブから抽出して引っ張り出してきたくらいなので。

そのため、おそらくWHOの姿勢としては「まだこの情報を更新はしないけど現在も適用できるか分かんないからあんまり当てにしないでね」といった感じだと推測されますし、

実際、ここから20年近く経った今では周産期医療にかなりの変化がありますので、あんまりこの情報は鵜呑みにしない方が良いかなというところです🐻‍❄️

20年前といえばスマホも無く、テレビがアナログ放送で、やっきーも初めてできた彼女に丁度ふられたぐらいの時期ですから、

そりゃあ医療の常識も様変わりしてるってなもんです。

***

そんな中、カナダのブリティッシュコロンビア大学アメリカのハーバード公衆衛生大学院の共同研究により、2018年にこんな発表がなされました。

🧑‍⚕️「18ヵ月も空けなくてよさそうやで。母児のリスクを減らすには12ヵ月あければ十分やで。」

🧑‍⚕️「WHOの発表は流産とか中絶とか高年出産とかをゴチャゴチャに評価してたからおかしかったんちゃうか?」

なかなかに革新的な内容となっています。

ちなみにこちら、ブリティッシュコロンビア州における123122件(流産や中絶を除く)の妊娠を対象とした非常に大規模な研究であり、かなり信頼度の高い発表と言えるでしょう。

***

よっしゃ!これで産後の避妊推奨期間は12ヵ月に決まりやな!と思いきや、

アメリカ産婦人科学会はそれを知ってか知らずか、2019年に妊娠期間に言及したガイドライン「Interpregnancy Care」を出しました。(その後2021年に改訂)

その中での妊娠期間に関する記載がこちら。

🧑‍⚕️「産後6ヵ月以内の妊娠はかなりリスク高いから避けてね」

🧑‍⚕️「産後18ヵ月以内の妊娠も少しリスク高いからきっちり情報提供しようね」

先ほどカナダさん達が言ってた話と微妙に違いますね。

カナダさん達は「12ヵ月で良い」と言ってましたね。

どっちを信じればええんや?🐻‍❄️

ちなみにアメリカ産婦人科学会(ACOG)は世界中の産婦人科学会の頂点に君臨する大ボスでございまして、

漫画界で例えると「手塚治虫が〇〇って言ってたよ」くらいに影響力のでかい団体です。

もちろんACOGもカナダに対抗して意固地になってコレを言ってるわけではなく(多分)、

17編もの文献を出典に挙げながらこのように主張しているのです。てごわい。

(※17編の中にカナダの研究は入っておりません)

というか、さっきのカナダの共同研究チームにアメリカのハーバード公衆衛生大学院が入ってたよね?🐻‍❄️

ハーバードの皆さんも「俺らの研究はガイドライン中に言及すらされてないんだけど?どゆこと?」と思ったんじゃないのこれ?🐻‍❄️

***

この時点で3団体入り乱れての大乱闘スマッシュブラザーズDXが行われている状況なわけですが、

なぜかさらにFSRH(イギリスの生殖医療団体)も割って入ってきました。

2017年のガイドライン(2020年に改訂)にはこのように記載されています。

🧑‍⚕️「産後6ヵ月以内はどう考えてもリスク高いな」

🧑‍⚕️「産後12ヵ月以内に関してもそれなりにリスクは高いらしい」

というわけで、以上を総合しますと、

WHOが「産後18ヵ月以内の妊娠はおすすめしないよ、できれば2年が良いよ」と言ってたところに、

この知見がさすがに古くなってきたのでカナダで2~3番目の名門大学が「18ヵ月は待ちすぎだよ、12ヵ月以内を避ければいいよ」と新たな研究を打ち出し、

すかさずアメリカの産婦人科学会のボスが「18ヵ月以上あけといた方がいいよ」というガイドラインを作成し、

イギリスの生殖医療団体が「12ヵ月以内の妊娠はリスク高いよ(何ヵ月あければいいのかについて言及は無し)」というガイドラインを設定。

もはや場はゴジラ & メカゴジラ vs ウルトラマン & ピッコロ大魔王くらいに収集のつかない事態となってしまいました。

***

一旦、話を整理しましょう🐻‍❄️

「産後6ヵ月以内の妊娠は止めといた方がいい」

⇒これは上記4団体の共通認識。信頼度はきわめて高いと言って良いでしょう。

「産後12ヵ月空けるのと18ヵ月空けるのと、どっちが良いかは微妙」

⇒クソデカ団体同士がスマブラのチーム戦をやってる最中であり、現時点では何とも言えません。

産後の推奨妊娠間隔は、以上のような理由でぼんやりふわふわしているわけです🐻‍❄️

***

やっきーはどう考えているのか(無料版)

では、上記を踏まえつつどう対応するのが良いのか?

やっきーはどう考えているのか?

というところをお話ししていきましょう。

産後、次の妊娠までの間隔は12ヵ月にするべきか、18ヵ月にするべきか。

「12ヵ月」と言ってるのはカナダとイギリスですが、

ここは石橋を叩いて、より長めに期間をとっているWHOとアメリカさんにあわせて「産後18ヵ月の避妊」にしておいた方が無難なのかな?

…と言いたいところですが、大事な要素がひとつ抜けています。

現代社会においては、先進各国いずれも平均初産年齢は上がっていく一方です。

日本は韓国・イタリア・スイス・スペインに次いで平均初産年齢が5番目の高さ(2014年時点で30.6歳、OECD加盟国の平均は28.7歳)となっています。

これに対して、アメリカは文化的・社会的な理由のため先進国の中ではかなり平均初産年齢が低めの方です。上記グラフで言うといっちゃん左にあるのがアメリカです。

つまり、アメリカとそれ以外の先進国で少子高齢化絡みの事情はけっこう違うんです。

上記のガイドラインの差異も、そのあたりが関与している可能性は否定できません。

こうした現代社会の現実を踏まえると、こと日本において、必ずしも産後の妊娠間隔として18ヵ月にこだわるべきではないと考えています。

それに、第1子が無事に出産したとしても、第2子の妊娠(不妊治療)に難渋するケースも決して少なくありません。

無事に妊娠成立したとしても、30代後半~40代となってくると、数ヵ月の違いが妊娠経過に影響を与えることもあり得ます。

こうしたケースを考慮すると、12ヵ月と18ヵ月の違いは決して小さいとは言えません。

産後の妊娠を12ヵ月あけるか、18ヵ月あけるか。

このへんはライフスタイルや不妊治療の有無、希望する子どもの人数によっても変わってくるところなので、一概に答えを出すのは難しいわけです。

なお、ここまで経腟分娩も帝王切開も全て含んだ「産後の避妊推奨期間」について話してきたわけですが、

帝王切開の場合に限定したコンセンサスは今のところハッキリしていません。

一応、上述したACOG(アメリカ)のガイドラインで「帝王切開後は出産から出産までが18ヵ月未満(≒帝王切開後8~9ヵ月以内くらいに妊娠成立)だと子宮破裂リスクが増加するよ」と記載されているにとどまる程度ですね。

が、まあ日本だと「産後1年は避妊を推奨」とするところが多い印象です。(1年半や2年という施設もしばしばあるようです)

ここは特に決まりがあるわけではありませんが、私もだいたい「1年は避妊推奨」と説明してます🐻‍❄️

***

……というのが、以前にXで回答した内容の完全版であり、無料でお届けできる範囲の話になります。

ここから先の話はちょっと全世界に向けては発信しづらい内容(私の個人的な経験を多分に含んだ考え)になってくるので、以降はサポートメンバー様限定とさせていただきます。

それでは、先ほど出てきたガイドラインや文献をさらにさらにさらに深掘りしつつ、私の考えを述べていきましょう🐻‍❄️

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