全力解説 vol.61「前置胎盤と低置胎盤と前置血管の話」

前回の記事「妊婦健診のときに産婦人科医が考えていること」には多くの反響をいただき、「分かりやすかった」といったご感想を多くいただけたのですが、
執筆した身としては「全妊娠期間を俯瞰して見たらまだまだ書いてないテーマばっかりだな」と内省するきっかけにもなりました。
もっとも、学生向けの医学教科書だと2ページほどしか扱われないような概念に対してもひと記事丸ごと、場合によっちゃ全4回とかの分量を割いて記事化してきたので、
取りこぼしてる範囲がまだまだ山のように存在するのは当然といえば当然です。
そんな中、サポートメンバーの方々向けに1~2か月に1回ほどの頻度で質問募集スレッドを立てているのですが、
詳細はここでは書きませんが先月末に立てたスレッドで「前置胎盤」に関する真剣なご要望がありました。
「前置胎盤」とは、簡単に言うと本来なら赤ちゃんの出口になる部分が胎盤で塞がれてしまい、赤ちゃんが出てこれないどころか大出血により母児の命も危うくなる病気のことです。

出典:日本産科婦人科学会「前置胎盤」
振り返ってみれば、前置胎盤に関するご質問は過去にもちょくちょく頂いていたところでもありますし、前回の記事でも前置胎盤については軽く触れています。
危険性の高い疾患なので、妊婦さんにとっても医療者側にとっても無視できない存在ですし、私も前置胎盤絡みでキモを冷やした経験は一度や二度ではありません。
…考えれば考えるほど、ブログ開始から数えて4年間、ニュースレター開始から数えて2年間、前置胎盤の単体記事をひとつも書いてこなかった理由が謎です。
どうみてもコナンが推理に夢中で人命救助サボってる疑惑の検証より先にやっとくべきだったろ。
というわけで本日は「前置胎盤と低置胎盤」、さらに深刻度の高い「前置癒着胎盤」について基本的な概要を説明しつつ、
自分自身の勉強も兼ねて、最新の知見まで含めて全力解説していきましょう🐻❄️
あとはその親戚的な疾患「前置血管」についても。
前置胎盤とは?
まずは基礎知識をおさらいしておくと、
・母体から胎盤へ、常に大量の血液が流れ込んでいる
・赤ちゃんは子宮内で胎盤とつながることで酸素や栄養を供給されている
というのが前提にあります。

これを踏まえて、通常の経腟分娩の流れを書くと、
①分娩の準備が進むと子宮口が開きはじめる
②開いた子宮口を赤ちゃんが通り、胎外に娩出される(産まれる)
③胎盤は剥がれて役目を終える
といった感じになっています。
ところがこの胎盤が内子宮口を覆い隠してしまっているとどうなるかというと、
①分娩の準備が進むと子宮口が開きはじめる
②子宮口と胎盤の重なっているところから出血する
③子宮口が胎盤で塞がれているので赤ちゃんが出ていくことも難しい
④母児ともに命の危機
となってしまうのです。

そのため、現代の医学では前置胎盤は原則として帝王切開、
場合によってはその病院で可能なあらゆる術前準備をして臨む必要すらあります。
それだけ準備をして臨んでもなお、生命の危機に陥る状況は少なくありません。
幸いなことに、現代では死亡率は劇的に改善しており、
2019年のアメリカのデータでは496症例中、死亡数は1人だけ(0.2%)となっていますし、
日本でも死亡率は統計が取れないくらい低いです。(統計データの取り方が前置胎盤症例のピックアップに向いてないという事情もあるものの)
しかし逆に言うと、医学が発展する前はかなり厳しい状態になっていたということでもあります。
では、昔は前置胎盤がどのように扱われていたのか。
ここでいったん、前置胎盤の歴史的経緯についてお話ししましょう🐻❄️
昔、前置胎盤はどのように扱われていたのか
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