全力解説 vol.63「産婦人科医として、最も緊張した3つの瞬間」

産婦人科マンガブログを定期更新していた頃、
よくいただいたリクエストが「コウノドリに出てきた〇〇を解説して!」というものでした。
しかし、ブログの題材に『コウノドリ』を取り上げるのは最低限にとどめてきました。
理由は2つ。
作中で物語も医学解説もだいたい完結してて付け足すことがあまり無いから、
そして何より『コウノドリ』を読んでると疲れるからです。
ここ大事なとこですが、私は断じて『コウノドリ』が嫌いなわけではありません。むしろ好きな作品です。人生で好きな漫画ベスト100にランクインするくらいには好きです。
産婦人科医として保証しますが、あれほどリアルに産婦人科診療の日常を描き切っている作品はそうそうありません。ファンタジー要素をほとんど排した上での完成度の高い医療ドラマ、それこそが『コウノドリ』最大の長所と言っていいでしょう。
しかし同時に、あまりにリアルすぎて、読んでると仕事してるような感覚に陥るのです。ひとエピソード読んだあとは重めの手術ひとつ終わったくらいの疲労感に襲われます。長所と短所は表裏一体。
よって、フィクションの世界くらいは内臓の位置関係を全部記憶しといて暗闇のなか手探りだけで手術を完遂するとか、
推定3~4期の子宮頸癌手術をひとりで一時間で終わらせるといったブラックジャック先生みたいな神技に浸っていたいわけです。

出典:ブラック・ジャック「病院ジャック」
余談ですが、小学生の頃はブラックジャック先生に憧れて「患者のことをクランケって呼ぶのかっこいい!将来やってみよう!」と思ったものですが、
実際に現場に出たらクランケなんて言ってる人は誰も居ませんでした。ナムサン。
一応、現在70オーバーの父(産婦人科医)に聞いてみましたが、父の学生時代(約50年前)でさえ「古い先生で使ってる人がたまにいる」レベルの死語だったそうです。
「クランケ」がトレンディでチョベリグでマジ卍だった時代は遥か昔。
話を戻しまして、『コウノドリ』を読んでいて特に疲れるエピソード、
それは自分自身がかつて経験した、ものすごく重い疾患や病態が出てきた時です。
私は幸いにして、過去に一度も妊産婦死亡の症例を経験したことはありませんが、
一歩間違ってたらそうなりかねなかったという症例ならいくつも経験しましたし、そのたびにメチャクチャ肝を冷やしてきました。
というわけで今回は、産婦人科医として寿命が縮まりそうになった3つの瞬間について、
『コウノドリ』から類似の描写を引用しつつ、私自身の経験談(ところどころフェイクあり)を交えてお話しします🐻❄️
①羊水塞栓症による弛緩出血
私が経験した中で、ぶっちぎりで恐ろしかった「3つの超重症周産期疾患」のうちのひとつ、羊水塞栓症。
3つの内訳についてはvol.61「前置胎盤と低置胎盤と前置血管の話」でも軽く触れており、何をもって超重症と呼ぶかは人それぞれだとは思いますが、
羊水塞栓症がものすごく恐ろしい存在であることは産婦人科医ならまず異論のないところだと思います。
『コウノドリ』に出てきた症例はこういったもの。


出典:コウノドリ 19巻
分娩を終えた杉浦さんは、助産師の小松さんに「胸が苦しい」と訴え、その直後に意識消失。
そばにいた鴻鳥先生・倉崎先生が確認した時、すでに呼吸をしておらず、血圧も著しく低下。
程なくして応援に駆け付けた四宮先生・ゴロー先生が絶句するほどの血の海が広がっていました。



出典:コウノドリ 19巻
救急の加瀬先生・下屋先生らがコードブルーを聞きつけて到着するも、既に杉浦さんの心臓は停止。総力で治療にあたるも、帰らぬ人となってしまいました。
このエピソード、本当にこの通りの経過になり得るのが恐ろしいところ。
私が経験したのはこれよりいくらか緩徐な経過だったので救命できましたが、それでも産婦人科人生で1、2を争う重症例だったことは疑いようもありません。
それこそ水道の蛇口をひねるような出血量。まごついてたら人が死ぬので「止血」と「生命維持」が何よりも優先されます。それ以外のことを気にしている余裕なんてありゃしません、死ぬから。
私が経験した症例はこんな感じです。
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