全力解説 vol.42「ミレーナについて語る。超語る。」

こんにちは!
産婦人科医やっきーです!
今回の記事のテーマは、以前のアンケートで『妊娠高血圧』に次いで第二位のリクエスト数となった『ミレーナ』です。

出典:バイエルファーマナビ
私はつねづね、低用量ピルのことを
・高い避妊効果を持ち、
・生理痛と出血量を抑える効果があり、
・月経困難症、月経不順、PMSを改善させる神の薬である
と言ってきたわけですが、
そんな私はミレーナのことを神の薬・バージョン3と呼んで神棚に祀っております。
うん、伝わりにくいな🐻❄️
ミレーナとは何かを簡単に言えば、薬がたっぷりしみ込んだT字型の樹脂です。
ただの樹脂と侮るなかれ。生理痛は和らぐ。出血は減る。そもそも生理の頻度も少なくなる。入れっぱなしなので飲み忘れの心配もなし。なんと5年間も効果が持続し、薬を抜けばいつでも元通り。
私も日常診療でよく使ってますが、患者満足度はかなり高い部類に入ります。

出典:バイエルファーマナビ
てなわけで、生理に関して何らかのお悩みのある方はとりあえず産婦人科に相談し、ピルかジエノゲストかミレーナを検討してみてね!
で済んでしまうのですが、今日のテーマは「ミレーナについて語る。超語る。」です。
ならば深いところまで超語らねばなるまいて。
本記事ではミレーナができるまでの歴史、ミレーナの作用、
ミレーナは何に効くのか、PMSに効くのかどうか、
ミレーナを入れた直後によく起きるトラブルについて、
そしてミレーナを採用しているクリニックが少ない理由、
私が個人的にミレーナをおすすめしたい条件・使いづらい条件は何か、
といったあたりを解説していきましょう🐻❄️

子宮内避妊具の歴史
「女性が自分の意思で避妊するための方法を確立しよう」という20世紀の女性人権運動の流れを汲み、
歴史上初の経口避妊薬である高用量ピル「Enovid」が誕生したのが1957年のこと。
(詳しくは全力解説 vol.26「ピルの話 上級編」をどうぞ)
そこから経口避妊薬・女性ホルモンに関する知見が飛躍的に蓄積されていったわけですが、ミレーナについてお話しするためにはもうひとつの避妊法の歴史を追っていかなければなりません🐻❄️
それが「子宮内避妊具」の歴史です。
コンドーム(精液を入れない)による避妊と、
経口避妊薬(排卵させない & 着床させにくくする)による避妊。
これら、言わば主流であった避妊法と全く別角度の発想で避妊効果を得ようとしたのが「子宮内避妊具」です。
「腟に何かを入れて避妊しよう」的な試みは大昔から存在し、
たとえば古代ローマ・エジプトではワニの糞を原料にした避妊具を腟内に入れて避妊をしていました。きったな!!!!

そこから時代が進み、婦人科医学の発展とともに「うまくやれば腟の中ではなくて子宮の中にもモノが入れられる」ということが分かると、
1909年にドイツのリチャード・リヒター博士が、絹糸を原料にして歴史上初の「子宮内避妊具」を完成させます。
このリヒター博士の避妊具はあんまり普及しませんでしたが、
のちにエルンスト・グレフェンベルグ(Gスポットを発見した人)や、
日本では産婦人科医で衆議院議員でもあった太田典礼がそれぞれ独自に子宮内避妊具を発明。
このリヒター博士の避妊具はあんまり普及しませんでしたが、
のちにエルンスト・グレフェンベルグ(Gスポットを発見した人)や、
日本では産婦人科医で衆議院議員でもあった太田典礼がそれぞれ独自に子宮内避妊具を発明。
特に後者の「太田リング」は日本製ということもあり、1936年に政府により使用禁止処分を受けるも、1974年に復活して1994年に製造中止となるまで日本では主流でした。
(今では太田リングを目にする機会はまずありませんが、「数十年前に避妊具を入れて以降ずっと入れっぱなしです」という高齢女性の子宮摘出術をするとたま~~に見ることがあります。あまりにも長期間入れっぱなしにするのは感染源になるおそれがあるので非推奨)

出典:Sam Rowlands "Intrauterine devices and risk of uterine perforation: current perspectives"
これらの子宮内避妊具が避妊効果をもたらす機序をざっくり説明すると、
避妊具に対して子宮の局所炎症反応を誘発することで、子宮内膜を着床しづらくさせ、精子の運動を妨げるといった感じです。
もっと分かりやすく言うと、
避妊具「ワイやで」
子宮「なんやこいつ異物認定!戦闘態勢!!」
精子「卵子のとこまで行きたいのに子宮内で戦争が起きてて行かれへん…」
といった感じです🐻❄️
ただ、当時の子宮内避妊具はこんな感じで子宮の炎症を誘発する……
ということは、月経痛の原因でもある子宮の炎症物質が増えてしまうということであり、
しかも当時は感染対策がまあまあ適当だったことも相まって子宮内感染も起きやすく、
さらに超音波もない時代だったのでうっかり避妊具が子宮を突き破る事故も多発し、
それでいて現在のものより避妊に失敗しやすかったため良いとこなしでした。これなら素直にコンドームした方がマシです。

1959年にはアラン・ガットマッハー博士が当時の子宮内避妊具のことを「効果がない」「感染源になる」「発がん性もあるかも」とケチョンケチョンに貶す論文なんかも出してるくらいです🐻❄️
しかしその後、製造技術や感染症知見の向上、超音波の普及などによって子宮内避妊具は飛躍的に使いやすくなっていきます。
その状況を特に大きく前進させたのが、ボディに銅を巻いたような形の「銅付加IUD」と呼ばれるタイプの子宮内避妊具でした。
コレは銅の成分が精子を強く失活させる作用があるため、避妊失敗率は1年間で0.6%程度とかなり低く抑えられました。

出典:Sam Rowlands "Intrauterine devices and risk of uterine perforation: current perspectives"
ただ、そんな銅付加IUDも「生理痛が強くなりやすい」「出血しやすい」などのデメリットは依然としてありました。
要するに「避妊は確実になったけどその代わり生理痛がひどい」といった感じ。
この状況で彗星のごとく現れた、それら全ての子宮内避妊具を過去のものにしてしまった存在、
それこそが今回解説する「ミレーナ」というわけです。
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績
