メンバー限定記事 第8回「コンビニ弁当をレンチンしたら死産が増える」という名古屋市立大学の研究について考える

何ひとつ納得できる部分のない珍しい論文。
産婦人科医やっきー 2024.12.06
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こんにちは!

産婦人科医やっきーです!

現在、全力解説vol.16「妊娠中の食べ物NGリスト徹底検証」を執筆中なのですが、

この企画にあたって読者の皆様から情報提供を募ったところ、2名の方々からこんなご意見が寄せられました。

そんなバカな?🐻‍❄️

と思って詳しくお話を伺ったところ、これに関しては出典元が存在するとのこと。

それがこちらです。

名古屋市立大学の環境労働衛生学分野特任助教・玉田葉月氏と、

同産科婦人科学教授・杉浦真弓氏により、

「市販の弁当または冷凍食品の摂取頻度と死産との関連が明らかになりました」との発表がなされたようです。

この発表はNutrients誌にも掲載されました。

さらに、WEBメディアサイトの”Wellulu”には論文の著者である杉浦真弓氏のインタビューが掲載され、

端的に言えば「レンジの熱でプラスチックの成分が溶け出して妊娠に悪影響を与えるのではないか」と主張しています。

こうした一連の流れを受けて、妊婦さんたちの一部で「コンビニ弁当や冷凍食品のレンチンは良くないのかも」という不安の声が上がっているようです。

今回の情報提供にあたり、この論文を隅々まで読んでみましたが、

主張を裏付けるデータの精査や仮説に対する検証が不足しており、科学的価値が限定的と言わざるを得ません。

もっと端的に言うと、

自由研究と大差ない内容です。

たぶん教授の発表だから誰も問題点を指摘してくれる人いなかったんだろうな、と思います。

私も結構な数の医学論文を読んできた方だと思いますが、

反ワクチン系以外でこれほどまでに何ひとつ納得できる部分がない論文を見られるのは非常に稀です🐻‍❄️

100000000000000000000000歩譲って、冷凍食品や市販の弁当が良くないとしても、

それらの中のどの成分がどう影響して悪影響なのか、あるいは何らかの栄養素が足りていないのではないか、といった部分を検証することが先決ですし、

それもせずに「冷凍食品や市販の弁当を食ったら死産するぞ」と主張するのはいささか暴論に過ぎます。

勝手に想像して申し訳ありませんが、この特任助教様と教授様はコンビニ弁当や冷凍食品を食うことなど滅多になく、

家事や育児を放棄した手抜き人間が作る悪魔の食べ物か何かと勘違いしているのかもしれません。

しかし、勤務や育児の影響でどうしてもご飯を作る時間のない妊婦さんだって居ますし、

既に冷凍食品や市販の弁当を食べた妊婦さんが不安に思われる気持ちがこいつらには想像できないんでしょうか?

というわけで、今回はそんな特任助教様と教授様にも分かるように、

名古屋市立大学による「妊婦の調理済み食品の摂取頻度と妊娠帰結との関連について」がいかにおかしな発表かを丁寧に丁寧に説明していきたいと思います。

ちなみに私はこの発表を見てまあまあキレているので、

口汚い表現が出て来そうになったら可愛いワンちゃんの写真を出して気を静めたいと思います🐻‍❄️

***

今回の論文を読んでみよう

では、彼女たちが書いた英語論文について、そのままだと読みづらいので翻訳しつつ解説していきましょうか。

まずはIntroductionの2段落目を見てみましょう。

***

However, the impact of these new dietary choices, such as consuming beverages stored in plastic containers, on human health remains unclear due to inconclusive evidence.

(プラスチック容器に保存された飲料の摂取が、人間の健康に与える影響は依然として不明です。)

🐻‍❄️いきなりプラスチックの悪口を言い出したぞ、この人?

断っておきますが、この文章は私が前の部分を極端に省略してるわけではなく、現代人の食生活を憂う話をしてたかと思ったら突然プラスチック容器の話をし始めましたからね。

なぜかプラスチック容器をハナっから目の敵にしてます。わざと肩をぶつけておいて因縁を付けるチンピラとやってることが一緒ですね。

さらに読み進めていきましょう。

***

Some studies have reported that ready-made meal consumption is associated with an increased risk of overweight and obesity; however, others have reported no such association.

(調理済み食品の摂取は肥満と関連していると報告されていますが、関連していないとする報告もあります。)

The prospective birth cohort in Osaka, Japan, showed that the average intake of coffee in pregnant women is 0.14 cups/day.

(大阪での前向きコホート研究では、妊婦のコーヒーの平均摂取量は1日あたり0.14杯であることが示されました。)

🐻‍❄️論点をひとつに絞ってくれ。

プラスチック容器の話をしたり、調理済み食品の話をしたり、コーヒーの話をしたり。Introductionの同じ段落内にこれだけの話題を入れて取っ散らかってるから結論の論理展開がおかしくなるんじゃないかな。

この著者が解いた数学の証明問題とかめっちゃ読みづらそう。

ちょっと飛ばして、Discussionの項目に移りましょう。

***

consumption of foods that require microwave heating was significantly associated with a risk of stillbirth after adjusting for covariates.

(共変量を調整すると、電子レンジ加熱を必要とする食品の摂取が死産リスクと有意に関連していました。)

These findings suggest that food packaging and reheating methods may affect outcomes possibly through exposure to chemicals present in meal packaging that are released in the process of cooking in a microwave.

(これらの知見は、電子レンジ調理の過程で食事の包装に含まれる化学物質が放出され、胎児に悪影響を与える可能性があることを示唆しています。)

🐻‍❄️ほう、大きく出たな。

摂取してる栄養分とか母体の体重増加とか、もっと他に調整すべき交絡因子がある気がしますが、この主張の根拠はどうなっているのでしょうか。

***

BPA, which is used in food packaging, may be a chemical particularly associated with the risk of stillbirth.

(食品包装に使用されているBPAは、特に死産に関連する可能性があります。)

BPA can be used as an antioxidant or as a plasticizer in the production of polypropylene, polyethylene, poly-vinyl chloride, and polycarbonate, which are often used in food packaging.

(BPAは、食品包装によく使用されるポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネートにおいて、酸化防止剤や可塑剤として使用されることがあります。)

Furthermore, ready-made meal consumption may increase exposure to phthalates, including DEHP, which has been weakly associated with an increased risk of adverse outcomes, such as miscarriage and pre-term birth. 

(調理済み食品の摂取はDEHPを含むフタル酸エステルの暴露を増加させる可能性があり、これは流産や早産などの有害転帰のリスクとわずかに関連が認められています。)

🐻‍❄️なるほど、プラスチック容器に含まれているBPAやDEHPといった化学物質がレンチンで溶け出して、流産や死産につながる…と言いたいわけですね。

(BPAはビスフェノールA、DEHPはフタル酸ジ-2-エチルヘキシルの略称。どちらもプラスチック製品に含まれることのある成分。)

となると重要なのは、具体的にどのくらいの量のBPAやDEHPがレンチンによって溶けてくるのか、容器におけるそれらの含有量はどのくらいか、といったあたりを検証する流れになるでしょう。

どうなんですか教授!!その有害物質はお弁当にどれくらい入っちゃうんですか!!!

***

The main limitation of this study is that it did not identify underlying mechanisms or substances directly associated with the reported increases in risk; in addition, we did not measure biochemical parameters, such as BPA levels, which should be quantified in future studies.

(今回の研究では、死産などのリスク増加に直接関連するメカニズムや物質を特定しませんでした。また、BPAなどの検出も行いませんでしたが、これらは将来の研究で定量化されるべきです。)

意訳:特に原因物質は検出してないけど、レンジで温めたらプラスチックの成分が出てくるのが悪いに決まってる。検証は誰かがやっといてくれ。

🐻‍❄️しろよ!!!!!!!検出を!!!!!!!

そのへんのコンビニでお弁当買ってきてレンジで温めたらプラスチックからBPAが溶けて出てくるかどうか試せよ!!!!!!!!BPAの検出方法なんてなんぼでもあるよ!!!!!!!

彼女たちがこんな駄文を論文化して世に送り出した理由がまったく分かりません。

これはもはや、シンプルに頭がおかs

ワンちゃんのおかげで冷静になれました。

話を進めましょう。

***

この論文のツッコミどころについて

さてさて、特に他の文献を引用するまでもなく、

本文を読んだだけでも因果関係と相関関係の区別がついてるとは思えず、論文の体を成してるとは口が裂けても言えない内容なわけですが、

ここからさらに研究の穴について指摘していきましょうか🐻‍❄️

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