全力解説 vol.29「食べ物NGリスト徹底検証 授乳編」

「授乳中に食べてはいけないもの?」を全て検証する。アルコールの飲み方についても。
産婦人科医やっきー 2025.03.14
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こんにちは!

産婦人科医やっきーです!

前回のvol.28『母乳に関する俗説を検証しまくる記事』をご覧いただいた方はご存知の通り、

今回の記事は『食べ物NGリスト徹底検証 授乳編』です🐻‍❄️

本記事執筆にあたり、妊娠中の食べ物NGリスト記事でも行ったように、今回も読者の皆様から「授乳中にコレを食べたらダメだと聞いたことがある」という食べ物を募ってみました。

産婦人科医やっきー
@yacky_sanfu
【読者の皆様へ】
「授乳中にコレを食べたらよくないと聞いたことがある」という食材の情報提供をお願いします🐻‍❄️

暫定の候補は生もの・アルコール・カフェイン・激辛料理・餅・脂肪分の多い食べ物(クリームなど)あたりかな。
検証が目的なので「そんなわけないやろ」レベルの眉唾な情報も大歓迎!…
産婦人科医やっきー @yacky_sanfu
というわけで、1位・2位ともに母乳系テーマのご質問でしたので、 次回の『全力解説』のテーマは「母乳に関する基礎知識」「授乳中の食べ物NGリスト徹底検証」にします。 コメントを下さった皆様、ありがとうございました!! 惜しくも漏れてしまった産後うつの話や妊娠高血圧の話もいずれします🐻‍❄️ https://t.co/moNVzb4mW0 https://t.co/YWBVZbS9EM
2025/02/19 14:11
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そしたらものすごい数の情報提供を頂きました。

本記事執筆に取り掛かった2025年3月7日時点で、コメントやDMでお寄せ頂いた品目をまとめると、ざっと以下の通り。

①脂肪分が多いもの(乳製品、焼肉など)

②炭水化物が多いもの(餅、あんこ、砂糖、スポーツドリンクなど)

③果物(イチゴ、バナナ、マンゴーなど)

④小麦製品・グルテン(パン、うどんなど)

⑤海藻類(ワカメ、コンブ、ひじき)

⑥生もの(生魚、生肉、生卵)

⑦水銀を含む魚介類(キンメダイ、マグロなど)

⑧ビタミンAの豊富な食べ物(レバー、うなぎ)

⑨アレルギーのおそれがある食べ物(ソバ、卵など)

⑩スパイス・香味野菜(カレー、ニンニクなど)

⑪アクの強い山菜(タケノコなど)

⑫K野菜(キャベツ・ブロッコリー・カリフラワー・タマネギなど)

⑬白い物(餅、白米、乳製品、大根など)

⑭ナス

⑮蜂蜜

⑯食品添加物(化学調味料、人工甘味料、着色料、保存料など)

⑰母乳が出やすくなるハーブティー

⑱ヴィーガン・ベジタリアンの食事

⑲カフェイン(コーヒー、紅茶、チョコレートなど)

⑳アルコール

妊娠中の食べ物NGリスト検証記事では全4回+おまけ1回にわたってお届けしたわけですが、本記事では上記20品目を一記事にまとめてお届けします。

計14000字の狂気の記事をお楽しみください🐻‍❄️

(前提知識を揃えるのが重要なので、部分的な抜粋やスクリーンショットの転載はご遠慮願います)

***

①脂肪分が多いもの(乳製品、焼肉など)

②炭水化物が多いもの(餅、あんこ、砂糖、スポーツドリンクなど)

このへんの「母乳が詰まる」系の食材は前回の記事で解説した通りで、

別に乳腺炎の原因にはなりませんし、母乳の成分の変化も誤差なので大丈夫です。

日本助産師会の『乳腺炎ケアガイドライン2020』、 ABM(母乳育児医学アカデミー)の『The Mastitis Spectrum』ともに「メシを制限しても乳腺炎は予防できない」と明言しています。

詳しくは前回の記事を読んでね🐻‍❄️

(※ただしカロリー過多は授乳と関係なくシンプルに体に悪いから気を付けよう)

(クリックで記事に飛びます)

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***

③果物(イチゴ、バナナ、マンゴーなど)

今回の調査でちょくちょく頂いたリクエストが果物

なぜかイチゴが最多で、次いでバナナ、わずかにマンゴー、といった感じでした。これ書いてたら腹減ってきた。

国内外の文献をいろいろあたってみましたが、果物が母乳に悪影響であることを立証したマトモな文献は皆無でしたし、

むしろ(何となく皆様もご存知と思いますが)野菜や果物は基本、体にいいもんです。

野菜は言わずもがな、果物も糖質が多めという欠点はあるものの豊富な食物繊維がそのデメリットをある程度打ち消してくれますし、ビタミンやカリウム(高血圧予防)にも富み、

厚生労働省も『健康日本21(第三次)』にて「20歳以上は1日200gを目標に果物を摂ろう」としているほどです。

出典:厚生労働省「健康日本21(第三次)」

出典:厚生労働省「健康日本21(第三次)」

2015年に83256人の白人の食事内容を分析した研究では「果物と野菜の摂取量が多いと、虚血性心疾患および全死亡率のリスクが低くなる」としていますし、

他にも類似した報告はけっこうあります🐻‍❄️

(参考:Camilla J Kobylecki et al. "Genetically high plasma vitamin C, intake of fruit and vegetables, and risk of ischemic heart disease and all-cause mortality: a Mendelian randomization study" Am J Clin Nutr. 2015 Jun;101(6):1135-43.)

あと何より果物は美味い。

私は酒飲みであるが、果物も大好きである🐻‍❄️

果物の良いところとして、ほぼその季節にしか食えないものもいっぱいあるんで季節を食材で感じられるところが良いわけですよ。(年中食えるハウスものも悪くないんですが)

今年のふるさと納税で何を頼むか決めてない人は果物にあてるのオススメだぞ🐻‍❄️

鳥取県の梨「新甘泉」はいいぞ🐻‍❄️

収穫時期がメチャクチャ狭く(8月下旬~9月頃が旬)、一瞬しか売り出されないので早めに予約しとこう。やっきー家の毎年の楽しみのひとつです。

(クリックで楽天市場に飛びます。超PR。)

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***

④小麦製品・グルテン(パン、うどんなど)

⑤海藻類(ワカメ、コンブ、ひじき)

続いてはグルテンと海藻類。

しかしこれらは『妊娠中の食べ物NGリスト徹底検証』の4番目の記事で解説した通りで、結論から言うと日本人は別に気にせんでいいです。

グルテンについては、欧米の方であってもグルテンフリー食が有用なのは150~250人に1人くらい。日本人でグルテンフリーが有効になるのは超絶レアケースです。

むしろ下手なグルテンフリーは何のメリットもないわりに糖尿病リスクだけは高めます。普通に害悪です。

海藻類も食物繊維やミネラルが豊富で、優秀な食材です。

もちろん、どちらも食べすぎは避けるべきですが、過度に摂取を控えることにはデメリットしかありません。

(クリックで記事に飛びます)

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***

⑥生もの(生魚、生肉、生卵)

本記事執筆前に読者の方々から頂いた情報で、多かったのが「授乳中に生ものを避けるべきと言われた」というものでした。

確かに妊娠中の生もの(特に生肉)はリステリアトキソプラズマという妊娠中の感染が怖い二大巨頭的な病原微生物が居ます。

(クリックで記事に飛びます)

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しかしこれらは胎盤を通じた感染であり、母乳には移行しません。

当然、授乳に全く影響もありませんし、同じ理由で慎重な判断を迫られている「ローストビーフ」「生ハム」「ナチュラルチーズ」「スモークサーモン」「魚卵」あたりも特に問題はありません。

ただし、どうしても「生もの」というだけで感染症リスクは避けられませんし、

ノロウイルス(牡蠣など)、アニサキス(青魚など)、サルモネラ(生卵など)といった感染症は赤ちゃんに直接影響するわけではないにせよ母体がシンプルにしんどいので、

信頼できるお店かどうかや食材の鮮度などを判断して食べましょう。

総じて言うと、「基本食っていいけど怪しいやつや保存状態が悪いやつは食うなよ」というごく当たり前の結論になります🐻‍❄️

***

⑦水銀を含む魚介類(キンメダイ、マグロなど)

「キンメダイとかマグロとかの水銀を多く含む魚介類には気を付けよう」という解説をしたわけですが、授乳中に関してこれはどうなのでしょうか?

結論から言うと、妊娠中に比べると授乳中に水銀を摂取した場合の悪影響は無視できる範囲なので心配にはあたらない、という旨の声明を厚生労働省が出しています。

食品健康影響評価では、母乳を介して乳児が摂取する水銀量は低いことが示されています。このため、授乳中の母親は注意事項においても対象としていません。


魚の栄養価は非常に優秀ですから、気にせず食べましょう🐻‍❄️

***

⑧ビタミンAの豊富な食べ物(レバー、うなぎ)

再び登場の『妊娠中の食べ物NGリスト徹底検証』の1番目の記事で解説した通り(この記事めちゃくちゃ役に立つやん)、

人間にとってビタミンAは必須であり欠かせないものではありますが、他のビタミンに比べると体内に貯めておける許容量がやや低く、必要以上に摂取すると有害になります。

そして厚生労働省の資料によると、授乳中の耐用上限量は妊娠中や非妊娠女性と同じく2700μgRAE/日と定められています。

実際の食品になおすと、1日あたり鶏レバーで19g、豚レバーで20g、牛レバーで245g、ホタルイカで142g、ウナギの蒲焼きで180gくらい。

ということは、授乳中も妊娠中と同じくらいの制限をすべきなのでしょうか?

しかし、母体がビタミンAを過剰に摂取したときに乳児に起きた健康被害に関する症例報告はどれだけ何を調べても出てこず(乳児なので自覚症状が訴えられていない可能性もありますが)、

厚生労働省や日本産科婦人科学会などによる授乳中のビタミンAの摂取基準値に関する具体的な言及もほぼ皆無。

そもそも、妊娠中にビタミンAを過剰に摂取することの最大のデメリットは「催奇形性」ですが、授乳中という時点で既に催奇形性を意識する段階は終わっています。

(催奇形性を意識する週数はだいたい妊娠12週くらいまで)

以上を勘案すると、鶏レバー豚レバーはビタミンAをかなり高濃度に含むため、授乳どうこう関係なしに母体の健康のために食べ過ぎは避けるべきとして、

牛レバーやホタルイカ・ウナギなどはさほど気にするほどではなかろうかと。

カロリー過多にならない範囲で自由に食べましょう。

あとは前回の記事でも書きましたが、18歳以上の女性におけるビタミンAの耐用上限量が2700μgRAE/日なのに対し、

Amazonで調べたら出てくる1粒で3000μgの海外製激ヤバビタミンAサプリなんかは絶対に買うなよ!🐻‍❄️

(Amazonで「ビタミンA サプリ」で検索したら多分ヒットします)

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***

⑨アレルギーのおそれがある食べ物(ソバ、卵など)

子どものうちに問題になりがちで、保護者としても気になるのが食物アレルギー。

ソバのイメージが強く、「妊娠中にソバは危険ですか?」といったご質問もお寄せ頂きました。

実際のところ、小児の食物アレルギーの原因としては鶏卵がトップ、次いで牛乳・木の実…となっています。割合で言うと、ソバはどちらかと言うと低いほう。

出典:消費者庁「令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」

出典:消費者庁「令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」

しかしソバはピーナッツなどと同様にアナフィラキシーショックなどの重篤な症状を起こす傾向が高く、命に関わることもあるため、割合が低いからと軽視できるものでもありません。

こうなると、お母さんとしても「自分が食べたものが母乳を通じて赤ちゃんのアレルギーを起こしてしまうのでは?」とご心配になることもあるはず🐻‍❄️

結論としては「全く気にしなくて良い」です。

そもそもアレルギーが起きる仕組みとは、食べ物や花粉などに含まれるタンパク質が人間にとって異物であり、それを排除する動きによるものですが(これ以外の仕組みのアレルギーもあります)、

母体が食べ物を消化した時点でそのタンパク質は鶏卵やソバなどの原型が跡形もなく消失していると考えて差し支えありません。

厚生労働省さんも言うてます。

子どもの湿疹や食物アレルギー、ぜんそく等のアレルギー疾患の予防のために、妊娠及び授乳中の母親が特定の食品やサプリメントを過剰に摂取したり、避けたりすることに関する効果は示されていない。子どものアレルギー疾患予防11のために、母親の食事は特定の食品を極端に避けたり、過剰に摂取する必要はない。バランスのよい食事が重要である。

あとは「ミルク(人工乳)よりも母乳のほうが赤ちゃんがアレルギーを起こしにくくなる」という俗説もありますが、信頼できる根拠はほぼありません。

***

⑩スパイス・香味野菜(カレー、ニンニクなど)

これらに関しては前回の「母乳に関する俗説検証記事」でも解説した通りで、

母乳に味が移って赤ちゃんの反応(吸い付き)が変わる可能性はあるものの、特に有害とする根拠はありません。

(クリックで記事に飛びます)

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ただし、一般的なタバスコが2,500~5,000スコヴィルのところ、

10,000スコヴィルを叩き出したオリジナル・デスソースであるとか、

激辛料理の歴史を変えたことでおなじみ『Blair's 2 A.M. Reserve』(900,000スコヴィル)などの頭おかしいレベルの激辛料理までいくと、

いくら経母乳投与といえど赤ちゃんに何かが起きかねないのでやめておきましょう。

このへんのギネス級の激辛ソース雑学はこちらで。

(クリックで記事に飛びます)

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***

⑪アクの強い山菜(タケノコなど)

今回の情報募集にあたって意外と多かったのが「アクの強い山菜はダメだと聞いた」というものです。

この説についてはいつから存在したのか、地域差があるのかは私が調べた限り見つかりませんでしたが、そこそこ多く頂いたご意見なのでけっこうメジャーな話なのかも。

しかし、これといって特別、授乳中に避けるべきという医学的根拠はありません。

タケノコでも何でも自由に食べると良いでしょう🐻‍❄️

ただ、調べてみると意外と深い話なので「はいはい俗説俗説」と掃き捨てられるものでもなかったりします。

そもそも「アク(灰汁)」とは、食物に含まれる苦味・えぐ味などの「食べ物を味わう上で不要な成分の総称」であり、決まった物質名が存在するわけではありませんが、

植物性食品におけるアクの成分としてはシュウ酸ポリフェノールなどがあります。

(動物性食品のアクはまたちょっと別物です)

具体的には、十分にアク抜きができてないホウレン草を食べた時に歯がギシギシする感じのアレはシュウ酸によるものでして、

より正確に言えばホウレン草のシュウ酸と口の中のカルシウムイオンが結合したことによって生まれたシュウ酸カルシウムです。

ホウレン草を食ったぐらいで生まれるシュウ酸カルシウムで健康被害が起きることはほぼありませんが、

食ったらヤバい系の毒草が毒草たる理由として高濃度のシュウ酸カルシウムが原因のことがあり、基本的にアクは体に良いもんではありません。

なお、カルシウムイオンなどと結合せずにそのまま体内に取り込まれた「シュウ酸」は尿とともに排出されるのですが、

尿の通り道でうっかりカルシウムイオンと結合してしまうと、尿の通り道が石で塞がれてしまうあの恐ろしき「尿管結石」が発生します。

出典:愛知医科大学泌尿器科

出典:愛知医科大学泌尿器科

尿管結石といえば「痛い病気」として必ずと言っていいほど挙げられる疾患の筆頭で、

アナル漫画家で有名な火鳥先生がコミケの原稿を書いている真っ最中の7月26日に発症し、翌月その体験談をそのまま新刊で出して伝説となったことでおなじみ(?)の病気ですね。

余談ですが、私はこの尿管結石ルポ漫画『さとり様の尿管にこいしができる話』が過去に読んできたあらゆる同人誌で最も好きであり、

火鳥先生による抜群の画力・表現力により尿管結石の恐ろしさがこれでもかと(コミカルに)伝わってくるのでお勧めです。

出典:さとり様の尿管にこいしができる話

出典:さとり様の尿管にこいしができる話

***

閑話休題。

アクの話に戻りますが、人の手により栽培され品種改良も進んでいる野菜に比べて、

人の手が入っておらず品種改良がされていない山菜は全体的にアクが強い傾向があるため、

そういう意味で「アクの強い山菜は良くないよ」というのはあながち100%間違いとも言い切れなかったりします。

しかし適切にアク抜きをすれば健康リスクは普通の野菜とそれほど変わらないので、

結論としては「ちゃんと下処理をしていれば特別に避ける必要はない」ということになります🐻‍❄️

結石予防の観点では、同時に適度なカルシウムを摂るのも有効です。シュウ酸として吸収される前にシュウ酸カルシウムを形成するので、体内に取り込まれずそのままうんこに出ます。

***

⑫K野菜(キャベツ・ブロッコリー・カリフラワー・タマネギなど)

「特に何の異常も無いのに赤ちゃんがめっちゃ泣く」という状況を「コリック(黄昏泣き)」と呼びます。

ヨーロッパの一部の独特な慣習として「Kがつく野菜を食べるとコリックを起こす」というものがあるらしく、

例えばLa Leche League Internationalによると、イタリアでは「カリフラワーを食べると良くない」と言い伝えられているとか。(イタリア語でカリフラワーはcavolfioreですが、ポーランドやチェコスロバキア、ハンガリーあたりでは頭文字がKです)

もちろん迷信です。

(何の出典も参考文献もないにも関わらず、なぜかMSDマニュアル家庭版には「乳製品やブロッコリー、キャベツなど特定の食品を食べた後の授乳後に乳児が啼泣することに気づく場合があります。母親は食事からそれらの食品を除去し、啼泣が軽減するかどうか確かめるべきです。」という文言があります。何でそれなりに実績あるサイトがこんなアホみたいな迷信を書いちゃうかな。)

***

⑬白い物(餅、白米、乳製品、大根など)

⑭ナス

ド迷信なので好きなように食ってください。

余談ですが、「秋ナスは嫁に食わすな」ということわざの由来には「秋ナスが美味すぎるので嫁には食べさせない(嫁いびり説)」「秋ナスは種子が少ないため子宝に恵まれない(ゲン担ぎ説)」「ナスを食べると体が冷える(嫁の健康のため説)」など色々あるみたいですが、

もちろん医学的根拠はありません。

***

⑮蜂蜜

たぶん多くの方はご存知のことと思いますが、蜂蜜は「乳児が食べてはいけないもの」であって、「授乳中に食べてはいけないもの」ではありません。

しかし稀にこれを混同して「授乳中に食べてはいけない」と勘違いしている方もいらっしゃいます。

乳児が蜂蜜を食べてはいけない理由は、蜂蜜に含まれている可能性のあるボツリヌス菌(クロストリジウム・ボツリヌム)です。

ボツリヌス菌が生み出す毒素は1gで1000万人以上の命を奪うことも可能な、自然界最強の毒として有名ですね🐻‍❄️

ただ、ボツリヌス菌が生み出す毒素はゲロヤバですが菌の強さ自体は他の菌とタイマンするとあっさり負けるレベルであり、

たいていの大人にとって蜂蜜を食べても何ともないのは、ボツリヌス菌が腸内細菌との生存競争に負けるためです。

(※他の菌との競争には弱いですが、ボツリヌス菌単体の生存能力はメチャクチャ高いです。100℃で加熱しても死にませんし、酸素のない空間が大好きです)

ところが、そんなボツリヌス菌にとって酸素が超少ない上に腸内細菌叢も発達していない1歳未満の乳児の腸内は絶好の繁殖場所になってしまい、

ライバルが居ぬ間に腸内で繁殖してボツリヌス毒素を放出し始め、乳児の筋力を奪う「弛緩性麻痺」を引き起こします。これが「乳児ボツリヌス症」です。

日本では1986~2012年で合計31例の乳児ボツリヌス症が報告されたものの、多くは2週間ほどで軽快するため基本的にそれほど重症化することはない…と言われてきたのですが、

2017年に国内で初めての死亡例が報告されたことでその危険性が再認識されました。

てなわけで、乳児に蜂蜜はよろしくありませんが、母体が蜂蜜を食べる分には全く問題ありません。

お好きなように甘味を味わってください🐻‍❄️

(なお、さらに危険性が高いのはボツリヌス菌が毒素をたっぷり出した食品を食べることで発症してしまう「食餌性ボツリヌス症」で、1984年に真空パックの辛子レンコンによって起きた事件では少なくとも31人の患者が発生し、9人が亡くなったほどです。今回は乳児ボツリヌス症の話なのでこれ以上は割愛しますが、自家製の瓶詰め食品が原因になりやすいことが指摘されています。注意してね)

***

⑯食品添加物(化学調味料、人工甘味料、着色料、保存料など)

大丈夫よ🐻‍❄️

やたら食品添加物を危険視する人いるけど、今の時代にそんな危険なもん使われんよ🐻‍❄️

***

⑰母乳が出やすくなるハーブティー

そんなもんあったら苦労せんわ🐻‍❄️

とバッサリ言い切りたいところですが、『全力解説』を謳うからにはきちんと裏取りもしましょう。

そういう民間伝承の中に、実は有用な医療が隠れていることだって無いとは言い切れません🐻‍❄️

というわけで調べてみたところ、タイにおける母乳の民間療法に関する文献では、

バジルに母乳分泌を促進する効果があるという言い伝えが存在するようです。

なるほどなるほど、もっと調べてみよう。

ペルシャの伝統医療について記載された文献によると、

バジルには母乳が出すぎるのを抑える効果があるとされているようです。

解散!!!!!!!!!!!!

※念のため申し上げておきますが、この裏ではメチャクチャ大量の文献を引いてます。結果、母乳を出しやすくする系のハーブ・ハーブティーでマトモな臨床試験がなされたものは皆無と言っていいです。むしろ必要以上に摂取したときの安全性が保障されてることはほぼないから何ごとも摂りすぎは禁物だぞ!

***

⑱ヴィーガン・ベジタリアンの食事

日本ではあまりメジャーではありませんが、海外ではヴィーガンやベジタリアンの方はそれほど珍しくありません。

一言に「ベジタリアン」と言っても乳製品はオッケーなスタイル、卵は大丈夫なスタイル、魚は食べられるスタイルなど様々な分派がありまして、

中には「フレキシタリアン」(柔軟なベジタリアン)という「基本はベジタリアンだけど、時と場合に応じて柔軟に肉や魚も食べるよ」というものもあるようです。それお前ただの肉をあんまり食わんだけの人とちゃうんか、などと言ってはいけません。柔軟な姿勢で受け入れましょう🐻‍❄️

そして「ヴィーガン」は食事において動物性食品を排除するだけでなく、衣類や化粧品・日用品にも動物由来成分を使わないという、より厳格なスタイルを指します。

これらに関する是非については、宗教や文化・思想が絡んでくるので私に何かを言う資格はありませんが、こと妊娠・授乳となるとひとつの問題が浮上します。

それがシンプルに「栄養が偏るやないか」問題。

アメリカCDCでは「ヴィーガンやベジタリアンの授乳婦」を母乳栄養における重大な問題のひとつとして取り上げており、

特に深刻に不足しやすいのがビタミンB12鉄分で、その他にもコリン・亜鉛・ヨウ素・オメガ3脂肪酸などが不足しやすい栄養素として挙げられています。

そのため、断固たる思想や宗教観に基づいたベジタリアン・ヴィーガンならともかく、

そうでないならば妊娠中・授乳中だけでも適度に動物性食品を摂るのがおすすめです🐻‍❄️

***

⑲カフェイン(コーヒー、紅茶、チョコレートなど)

妊娠中のカフェイン摂取やカフェインの基礎については『食べ物NGリスト徹底検証』第3回の記事で解説した通りなので、詳しくはそちらをご参照頂きたいところですが、

授乳中のカフェインについてはどうでしょうか?

「授乳中にカフェインを摂っていると赤ちゃんの落ち着きがなくなる」という俗説はよく耳にしますが、

これに関しては2012年に行われた前向きコホート研究で、「カフェインをたくさん摂っている母体の赤ちゃんは夜泣きの頻度が増えるのか」を調べたものがあるのですが、

母体が300mg以上のカフェインを摂っていても、夜泣きが有意に増えはしなかったようです。

その他、カフェイン摂取と授乳の関係について調べた研究はいくつもありますが、あまりパッとしたものは無く、

サンプルサイズが少なかったりデータの取り方が偏ってたりするので全体的に信憑性はいまいちです。

ちょっとギョッとする話として「カフェインで乳幼児突然死症候群の発症率が上がるかも」というものもあったりしますが、これも裏付けは微妙で、

1日800mg(コーヒー10杯ぐらい)以上のカフェインを摂っている母体であっても他の因子を調整したらリスクとは言えなかったという研究もあります。

要するに、母乳にカフェインが入っていたとしても具体的に「赤ちゃんに〇〇が起きる」というコンセンサスの取れた事象はいまいちありません。

とは言っても安全基準は気になるところなので、カフェインの安全な摂取量を調べてみましょう。

他国のガイドラインを見てみると、カナダ保健省では「授乳中の女性は300mgまで」としているほか、

アメリカCDC(国際安全衛生センター)では「少量~中程度の量(1日300mg以下)のカフェインであれば乳児に悪影響を与えることはない」としています。

ちなみにコーヒー1杯のカフェイン量はだいたい80mgくらい、紅茶は40mgくらい。

てなわけで、一般的なコーヒーなら2~3杯程度は余裕で許容範囲になりますし、

紅茶やその他のお茶に関しても飲みすぎなければまず問題にはなりません。

ほどほどの範囲で、好きなように飲みましょう。

ただし、スタバのでかいやつはけっこうカフェイン多いので要注意ね。ドリップコーヒー(ホット)のトールでカフェイン量が276mgあります。

なお、チョコレートやココアのカフェイン量はメチャクチャ少ないので気にしなくていいです。

カロリー過多にならん範囲でお好きに飲んでください🐻‍❄️

***

⑳アルコール

最後はアルコールですね。

以前の記事でも尋常ではないくらいの強敵だったアルコールでしたが、授乳中の飲酒はどのように解釈すべきなのか考えていきましょう。

なお、授乳中のお酒の扱いについては厚生労働省や日本産科婦人科学会等による指針が無いため、

「各国における指針」と「日本人と欧米人のアルコール分解速度の違い」から総合的に考えた授乳中のお酒の飲み方(私の解釈を多分に含む)についてはメンバー限定での公開とさせて頂きます🐻‍❄️

(お読み頂ければ分かりますが、今回も超強敵だったぜ)

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