全力解説 vol.68「37週の出産について分かっていること」

最近、『妊娠37週での出産』が話題を呼んでいます。
発端となったのは、東京の某産院が「全員一律で37週の計画無痛分娩としている」ことが取り沙汰されたことです。
これについて妊産婦さんのみならず、産婦人科医・小児科医からも「自然に産まれるならともかく、37週での誘発は医学的な適応がない限りアカンやろ」と波紋が広がりました。

37週で生まれてきてしまう子(うちの息子も)や、医学的な理由で医学的な理由で早く出してあげないといけない場合は仕方ない。
でも、適応もないのに37週で産ませるのは赤ちゃんにデメリットがあることをよく考えないといけない。

ただ、医学的な理由が無いのにあえてリスクのある37週で分娩日程を組むことについては、疑問を持つ産科・小児科の先生が多いと思います。
37週で生まれてきてしまう子(うちの息子も)や、医学的な理由で医学的な理由で早く出してあげないといけない場合は仕方ない。
でも、適応もないのに37週で産ませるのは赤ちゃんにデメリットがあることをよく考えないといけない。
ついにはその産院が公式で見解を出したのですが、これまた納得感の薄い内容だったので余計に問題が大きくなってしまった…
というのが簡単な経緯です。
この一連の騒動に関してはきちんとした問題提起も多かったものの、
ChatGPTやGrokの回答をただ貼り付けたと思しき、いまいち的を射ていないツイートも多く見受けられ、
さらには今回の産院とは無関係に37週で自然分娩となった方々による困惑の声も散見されるなど、収拾のつかない状況になっていきました。
というか当レターのサポートメンバーの方々からもご意見が寄せられまくったので、今回こうして記事を書くことにした次第です。
「正期産」の定義について
まずは、基礎知識を確認しておきましょう。
「正期産」と呼ばれる在胎週数は妊娠37週0日~41週6日を指します。
妊娠42週0日以降(過期産)だと胎盤が赤ちゃんの成長を補えなくなってくることによる胎児機能不全(赤ちゃんしんどい)が懸念されます。
妊娠36週6日以前(早産)による赤ちゃんのへの影響は週数次第なので一概には言えませんが、「Late Preterm(後期早産)」と呼ばれる妊娠34週0日~36週6日に限って言うと、特に懸念されるのが出産直後の赤ちゃんの呼吸不全などですね。
よって、出産に適した週数は妊娠37週0日~41週6日の間である…という意味で「正期産(Term)」と呼ばれるようになりました。

実はこの「正期産」の定義、ほんの半世紀前くらいまで超ふわふわしてました。
私が手に入れられた限り、具体的な週数を指定して「正期産」という言葉が使われた最も古い国内文献が、
1963年の学会記録『予定日超過妊婦の処置とその結果』(高沢次也. 金沢大学十全医学会雑誌 69(3): 567-568, 1963.)です。
この中では「妊娠第41~42週分娩を正期産、第43週以上の分娩を過期産という」とあり、今とはだいぶ違う定義が用いられています。
さらに、1973年の『生下時体重の産科的意義』(永井生司. 産科と婦人科 40(11): 1477-1484, 1973.)でも「早産児」の定義を「妊娠38週以前」としており、こちらも現在の基準に合致しません。

出典:永井生司『生下時体重の産科的意義』
要するに、この頃は各国・各医師が「だいたいこれぐらいが通常だろ」と考えながら正期産の定義をぼんやり決めていたわけです。
(そもそも論として、現在のように超音波が普及しておらず、排卵日を推定する方法も限定的だった時代なので、1週間程度の誤差はあって当たり前であり必要以上に週数にこだわる意味が薄かった、という事情もあります)
この混沌とした状況は、1976年にWHOが「37週~41週を正期産とする」と定義付けたことでようやく決着しました。
ただしこの正期産の定義は、あくまでも統計調査を取る上での便宜的な設定に過ぎませんでした。
というかWHOの文書のタイトルからして「Definitions, Terminology and Format for Statistical Tables(周産期統計のための定義)」ですからね。
もちろん「この時期で産まれたなら問題ないことが多い」というのも大きな要因でしたが、
そもそもの定義決定の経緯的に、母児の周産期成績の良し悪しありきで決まった定義ではないのです。「37~41週」は統計を取る上で必要に迫られて決められた基準にすぎません。
勘違いされやすいですが、ここ大事なところです。
その後、統計調査が進むにしたがって、
正期産(37~41週)の間でも周産期成績に差があるのでは?この区分で本当に良いのか?
という議論が盛んになされるようになってきます。
決定打となったのが2013年、ACOG(アメリカ産婦人科学会)が発表したCommittee Opinion No.579 “Definition of Term Pregnancy”でした。
この中で明確に、
妊娠37週0日~38週6日を「早期正期産(Early Term)」
妊娠39週0日~40週6日を「満期正期産(Full Term)」
妊娠41週0日~41週6日を「後期正期産(Late Term)」
と呼ぶ区別方法が提唱され、「37~41週をひとまとめに同リスクとして扱う」ことは非推奨とされたのです。

出典:亀井良哉「36~37週で生まれた赤ちゃんの生理」ペリネイタルケア 42(6): 542-548, 2023.
この流れには各国の産婦人科学会も追随しており、日本も2026年版のガイドラインからこの区分法が明示されるようになりました。
周産期医学的に、今は「正期産」の扱いが変わりつつある時代と言っても良いでしょう。
よって今回の件の争点は、
「早期正期産(Early Term)」「満期正期産(Full Term)」「後期正期産(Late Term)」にどのような違いがあるのか?
自然に陣痛が来た場合を含め、37週の分娩による母児の周産期成績をどう捉えるべきか?
といったあたりが軸となってきます。
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