全力解説 vol.74「GBS陽性と言われた時に読む記事」

妊婦健診の際に「GBSが陽性です」と言われたことがある妊婦さんは多いのではないでしょうか。
妊婦健診をやってる側の立場からすると、この時の反応は様々で「そうなんスね」くらいの軽めの反応もあれば、「とんでもない菌に感染してしもた」と落ち込んでしまう方もいらっしゃいます。そのあとにしっかり説明もするわけですが。
GBSとは、簡単に言えば「母体には基本悪さをしないがエケチェンに対してだけ猛烈に悪さをすることのある菌」です。
そんなGBSの正式名称は「Streptococcus agalactiae(ストレプトコッカス・アガラクチエ)」と申します。覚えにくいこと山のごとしなので「GBS」と呼びましょう。

出典:CDC
WHOによると、全妊婦さんのうちだいたい1~3割が「保菌」をしている状態です。
保菌状態にあるだけなら、基本的に悪さはしません。
しかし保菌状態にある妊婦さんがエケチェンを出産すると、エケチェンがGBSに曝露・感染し、髄膜炎や敗血症などの重い感染症を起こしてしまう可能性があるわけですね。
現在の日本では妊婦健診中に母体のGBS保菌の有無を調べますし、保菌している(あるいは感染リスクが高い)状態であれば抗菌薬を分娩中に投与するなどして感染を防ぐ仕組みが確立しております。
その結果、2025年に日本のJIHSが発表したデータでは、早発型(生後6日以内)の小児侵襲性GBS感染症は1,000出生あたり0.02~0.04人ほど、遅発型(生後3か月以内)は1,000出生あたり0.06~0.19人ほどと、非常に低い感染率になってきています。
とはいえ、それでもGBSに不安を抱く方は少なくないと思います。
本日はそんな皆様に向けて「GBS陽性と言われた時に読む記事」をお届けします。
GBSは怖い菌ではありますが、対策方法も確立しています。
相手が分かれば適切に恐れることもできるというもの。
GBSって何?おいしいの?心配する必要あるの?不潔なせいで陽性になったの?
といったよくある疑問について、歴史的経緯、現在の対応、GBSワクチン開発の見通しに至るまで深く掘っていこうと思います。
(※おいしくはない)
GBSって何?
まずは「GBSって何?」というテーマからいきます。
生涯で50台以上の顕微鏡を作ったオランダの顕微鏡マニアことレーウェンフックは、
1674年に湖の水を観察していると極小サイズの何かが動いていることを発見。

これが人類史上初の「単細胞微生物が動く姿の観察」であり、レーウェンフックはのちに「微生物学の父」と呼ばれるようになります。
これをきっかけに微生物学が進歩していく過程も面白いのですが、今回はGBSの話なので大胆にカットします🐻❄️
レーウェンフックから200年が経った1874年、ウィーンの外科医であるテオドール・ビルロートは術後の感染創から鎖状に並んだ丸い菌を発見し、
この菌にギリシャ語の「streptos(鎖状の)」「kokkos(粒)」から「Streptococcus」という名前を付けました。
日本語で言うところの「連鎖球菌(レンサ球菌)」です。

このビルロート先生、当時はまだ成功例が存在しなかった胃癌の手術法を発明し、これが今なお世界中で行われる術式「ビルロート法」として残っていますし、
さらに趣味の音楽が高じて作曲家のブラームスとマブダチになり、ブラームス側もビルロート先生に作曲のアドバイスを求めるほどだったりと多才すぎる功績を残していらっしゃいます。
余談ですが、晩年のビルロート先生とブラームスはちょっとした諍いからめっちゃ険悪な仲になってしまい、
ブラームスがビルロート先生に「これだから素人音楽家は」的なことを書いた辛辣な手紙がビルロートの奥さんに読まれてしまいビルロート先生の葬儀に出禁になるなどしています。

その後、1884年にローゼンバッハが特にヤバげな感じのレンサ球菌に「Streptococcus pyogenes」と名前を付け、
さらに1887年に獣医微生物学者のノカールとモレローが牛の乳房炎を起こす別のレンサ球菌を発見、それに対し1896年に細菌学者のレーマンとノイマンが「Streptococcus agalactiae」と命名しました。
この「Streptococcus agalactiae」こそが本記事のメインであるGBSそのものであり、
ちなみにギリシャ語でagalactiaeは「乳が出なくなる」を意味します。乳房炎のウシから見つかった菌だったので。
微生物学の進歩に伴い、「ちっちゃい菌が鎖みたいに繋がってるやつ多すぎでは?」「種類を分けてみようか」という試みが行われ、
スコットムーラーが人間の血液(赤血球)を壊す性質を持ってるかどうかで分類するのはどうか?と提案。のちにブラウンがこの性質を整理し、
・α溶血性⇒人間の赤血球をまあまあ破壊するやつ
・β溶血性⇒人間の赤血球をめちゃくちゃ破壊するやつ
・γ溶血性⇒人間の赤血球を破壊する性質なし
の3分類が提唱されました。
さらに1933年、当時はかなり珍しかった女性微生物学者のレベッカ・ランスフィールド先生が、レンサ球菌の抗原を抽出してA群~E群の5種類に分けるという手法も提案。
ここでいうA群~E群はただのグループ名であり、α・β・γ溶血性とはまた別ものです。
(当初はA~Eの5種類でしたがのちに別のグループが発見されまくり、現在はA~HとK~Vの計20個のアルファベットが割り当てられています。アルファベットにおさまる数でよかった)

要するに「レンサ球菌」という菌を大ざっぱにグループ分けするならば、
「A群α溶血性」「B群α溶血性」…「V群α溶血性」とか「A群β溶血性」「B群β溶血性」…みたいな感じで20×3=60グループが存在することになります。理屈の上では。
たとえるなら「野球部の男子」「サッカー部の男子」「バスケ部の男子」「野球部の女子」「サッカー部の女子」「バスケ部の女子」以下略…みたいな感じ。
ただ、実際にはこの60グループには猛烈な偏りがあり、
たとえばC群でβ溶血性のレンサ球菌は6菌種くらいいる大所帯です。
しかし、
A群でβ溶血性のレンサ球菌はほとんどStreptococcus pyogenes1菌種しかいませんし、
B群でβ溶血性のレンサ球菌もほとんどStreptococcus agalactiae1菌種のみです。
よって前者は「Group A Streptococcus」略して「GAS」と呼ばれ、
後者は「Group B Streptococcus」略して「GBS」と呼ばれるのです。
ほんとは単なるグループ名に過ぎないのに、その中に一人しかいなくてかつそいつが超有名人なので結果的にグループ名が個人名になっちゃった、というのがGASやGBSです。
元々はグループを指す名前だったのに現在ではほとんど個人名と同義になっている、という点ではバカリズムとかZARDとかSuperflyみたいな感じでしょうか。
まあそういった経緯でStreptococcus agalactiaeくんはGBSというグループ名≒個人名で活動し、芸能事務所に所属しとるわけです。
宣材写真がコレです。

出典:CDC
なぜGBSは赤ちゃんにとって危険なのか
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