全力解説 vol.71「点滴を失敗されない方法はあるのか?」

当ニュースレターでは、サポートメンバーの方々限定で質問にお答えする質問募集スレッドを1~2か月に1回ほどの頻度で開いております。
ここで送られてくるご質問はいずれも芯を食ったものだったり、深刻なお悩み相談だったり、「その発想は無かった」と感心させられるものだったりします。
その内容の濃さに私も気合いが入り、1000~2000字くらいかけて回答を書くこともよくあります。たまにスレッドの質問に対し1万字の記事を書くこともあります。
そうした「名質問」の数もだいぶ溜まってきたので、本日はそれらをまとめつつ、
過去の回答にさらなる追記・修正を加えて一本の記事にしましょう。
今回、お答えするご質問は以下の5つです。
(質問文を一部改変・抜粋しております)
「ます寿司・さば寿司は妊娠中に食べられますか?」
「血管が細く、点滴に失敗されることが多いです。何か対策はありますか?」
「グレードA(超緊急)の帝王切開にスタッフが間に合わなかったことはありますか?」
「排卵を予測できる唾液検査キットが販売されていますが、信頼できますか?」
「月経前症候群と更年期症状は併存するのでしょうか?」
「ます寿司・さば寿司は妊娠中に食べられますか?」
まずはこちら、ます寿司・さば寿司といった「酢で締めたタイプの生魚」はどうか?というご質問です。
これは意外と扱いが難しいところなので、詳しく見ていきましょう。
まず前提として、海水魚の生食自体は『妊娠中の食べ物NGリスト記事』でも書いたように、一律で避けるべきとする根拠はありません。
モノを選べばリスクはそれなりに抑えられます。
では、ます寿司・さば寿司はどうなのか?
富山県の郷土料理・ます寿司の基本的な作り方は、
鱒(ます)の切り身に塩を振り、酢に30分~1時間程度漬けたのち、酢飯の上に乗せて重石をかける…といったものです。

鳥取県の「柿の葉寿司」も鱒をよく使いますが、富山県と同様に酢で締めています。
「さば寿司」は全国に類似の伝統料理がありますが、同じように塩や酢で締めた生サバを酢飯に乗せることがほとんどです。
例外は、完全に火を通したサバを使った「焼きサバ寿司」(福井県など)や、米と一緒に発酵させる「なれずし」(和歌山県)、米や野菜・麹ごと20日ほど発酵させる「飯寿司」(北海道)あたりでしょうか。
こういう「生魚の塩漬け⇒酢締め」という製法の魚料理が日本中に存在した理由として、
「塩によって魚の身に含まれる水分を減らす」「酢酸によって低pH環境にする」という工程に雑菌の繁殖を抑える効果があるほか、
魚の生臭さの主成分であるトリメチルアミン(アルカリ性)を中和することで魚本来の味を引き出すこともできる、きわめて合理的な手法なのです。

そんな話をしてたら腹減ってきたのでそろそろ本題に入りましょう。
ます寿司・さば寿司の喫食が妊娠に与えるリスクについて。
ここで、懸念される病原体を切り分けて考えてみましょう。
ます寿司・さば寿司といった酢締めの生魚の懸念は大ざっぱに「リステリア」「寄生虫」「その他の雑菌」に分類できます。
「その他の雑菌」に関しては、そもそもの製法的に雑菌の繁殖は抑えやすいので、
今回は適切な業者の商品を、適切な保存法で消費期限内に食べるという前提の上であればOKとしておきます。
問題はリステリアと寄生虫です。
『妊娠中の食べ物NGリスト記事』で説明した通り、妊娠中に絶対に避けたい病原体のひとつが、流産・死産につながることもある菌「リステリア」であり、
魚介類で言うとスモークサーモンがリステリアの感染リスクが高いことで知られており、厚生労働省も妊娠中の喫食を控えるよう呼びかけています。

出典:厚生労働省
なぜ魚介類の中でもスモークサーモンをことさらに取り上げるのかというと、保存期間が比較的長いため(おおむね一週間以上)というのが理由のひとつです。
冷燻によって作られたスモークサーモンはリステリアが生き残ってしまうことがあり、かつ4℃以下の冷蔵状態でもリステリアは増殖が可能なので、この保存期間にリステリア菌がゆっくり増殖してしまうことが懸念されるわけですね。
翻って、ます寿司の消費期限を見てみると、
ますのすし本舗 源は「商品到着日の翌日14時まで」、
味の笹義は「製造日を含め3日」としている等、
おおむね日持ちは2~3日間という想定になっているのは共通認識のようです。
さば寿司もだいたい同様で、柿の葉すし本舗たなかは「製造日を含む3日目の20時まで」としています。
ます寿司・さば寿司の個別のリステリア感染リスクについてまとめたデータは存在しませんが、
これらの保存期間から推察するに、リステリア感染リスクに関してはスモークサーモンほど高くはなさそうだが、一般的な生魚と比べて安全とも言いがたいという評価になるでしょう。
ちなみに、日本の小売店で販売されている魚介製品のリステリアの検出率を調査した研究によると、調査対象となったお寿司36検体のうちリステリアが検出されたものは0だったようです。
これだけで済むならば、リスクリターンを踏まえた上で「早めに食べるならOK」と許容する選択肢も考えられますが、ます寿司・さば寿司には他にも無視できない存在があります。
寄生虫「アニサキス」や、ます寿司に関しては「日本海裂頭条虫」の存在です。
マスやサバはアニサキス感染リスクが比較的高い魚介類のひとつで、天然か養殖か、国産か輸入か、冷凍か未冷凍かによっても変わってきますが、少なくとも日本近海のサケ・マス・サバ類のアニサキス感染リスクは大きな懸念事項です。
アニサキスは酸や塩分にやたら強いため、塩で漬けても、酢で締めても、醤油やワサビをたっぷり付けようとも全く死なず、確実な対策方法といえば「冷凍する」「加熱する」くらいしかありません。

出典:厚生労働省
ちなみに、私が過去に書いた全記事中で最も詳しくアニサキスについて解説したのは『テニスの王子様』の解説記事だったりします。なぜだ。
また、マスには下痢や腹痛を引き起こす寄生虫「日本海裂頭条虫」のリスクもありますし、サバには「ヒスタミン中毒」のリスクが乗っかってきます。
これらも、適切な業者の商品を選ぶことである程度は防ぐことが可能ですが…
(※ヒスタミン中毒:魚の身に含まれるアミノ酸が変質し「ヒスタミン」になった状態の魚を食べると起きる、顔や口の赤み・かゆみ・吐き気や嘔吐などの症状。いったんヒスタミンが大量発生したあとの魚を加熱してもヒスタミンは消えない。赤ちゃんにうつるタイプの中毒ではないが、シンプルに体調が悪くなるので避けたい。不適切な温度でサバやマグロ、カツオ、イワシ、サンマなどを保存するとヒスタミンが発生するので、信頼できるお店の魚を食べよう)
以上をまとめると、ます寿司・さば寿司に関しては、リステリア以外に赤ちゃんに大きな害となる病原体は存在しないので絶対にダメとすべき根拠も無いものの、
・リステリア
・アニサキス
・日本海裂頭条虫(ます寿司)
・ヒスタミン中毒(さば寿司)
のリスクがそれぞれ微妙に重なるので積極的に安全と言えるわけでもない、という微妙な結論になってしまうのです。
なお、乳酸発酵系のお寿司(なれずし・飯寿司)に関しては感染リスクを測ることがきわめて難しいため、良くも悪くも明言は避けておきますが、
逆に言えばしっかり火が通ったお寿司なら問題はありません。
前述した焼きサバ寿司のほか、煮穴子やウナギ、茹で・蒸しエビなどは明確に火が通っていますので、管理や調理工程に問題がない限りは感染リスクを気にする必要はないでしょう。
ここでものすごく個人的な話をしますが、私は焼きサバ寿司が大好きです。
生でもうまいが、焼くことで香ばしさとジューシーさが加わったサバを、さっぱりとした酢飯が受け止めます。
ここに大葉やゴマのアクセントが加わると、混然一体となった快感が口全体を包み込み……
ウ、ウオオオオーーーーッッ\( 'ω')/

「血管が細く、点滴に失敗されることが多いです。何か対策はありますか?」
次のご質問です。点滴に失敗されずに済む方法について。
産科領域での点滴というと、リトドリンの長期点滴が思い浮かびますが、それ以外にも点滴をする機会はけっこう多いものです。
つわりの補液、貧血が強い時の鉄剤投与、分娩時や帝王切開時など。
しかし、血管が細かったり蛇行していたりと、「点滴をとるのが難しい人」というのはどうしても一定数存在するものです。
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