全力解説 vol.75「産後に何度も風疹ワクチンを打つ必要はあるのか?」

何度も何度も風疹ワクチンを打つ方針が緩和されたよ!!!
やっきー 2026.09.19
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過去に繰り返し寄せられたご質問として、こんなものがあります。

🤰「風疹の抗体がつきにくいタイプです。前回も前々回も出産後に風疹のワクチンを打ちましたが、今回も打つべきでしょうか?」

このニュースレターを始める前、質問箱開放時代(2~3年前くらい)は月に1本くらいのペースでこういった「風疹抗体が付きづらい」というお悩みが寄せられていました。

それだけ切実、かつ当事者にとってはストレスフルな存在が「風疹抗体」だったことは疑いようもありません。

風疹といえば、妊娠中に感染すると赤ちゃんに後遺症をきたすおそれのある感染症で、

具体的には「目の白内障」「心奇形」「聴覚障害」などがあります。

そして、ワクチンを接種しておくだけでかなりの割合で防ぐことが可能な病気でもあります。

詳しくは、先天性風疹症候群による聴覚障害をもつヒロインが登場する『聲の形』を解説したこちらの記事をお読みいただくとして。

ただ、免疫の付き方には個人差があるもので、

きちんとワクチンを打ってるのに抗体がうまく付かない人もいます。

2023年までの産婦人科ガイドラインでは、「妊娠初期検査で風疹抗体価(HI)が16倍以下なら産後に風疹ワクチンを接種する」ことが推奨されていました。

これはこれで風疹予防としてめちゃくちゃ大事なことなのですが、中にはワクチンを何回接種しても抗体価が16倍よりも高くならず、

妊活前の接種も含めるとワシ何回ワクチン打ったらええねんとうんざりしていた方が少なくなかったのも事実。

(いちおう隅っこに「2回接種してたら追加しなくていいという意見もある」的な但し書きもありましたが)

しかし2026年の産婦人科ガイドラインの改訂事項のひとつに、

今年の日産婦のアレ(赤ちゃんちっちゃい診断)の陰でひっそりと、しかしけっこう重要な変更がなされました。

それがこちら。

CQ605.妊婦における風疹罹患の診断と児への対応は?

⑤風疹HI抗体価が16倍以下の妊婦には、以下を行う。
1) 2回の予防接種記録が無い場合、産褥早期の風疹含有ワクチン接種を勧める。
2) 妊婦の同居家族が抗体を保有していることが明らかでない、あるいはワクチン未接種である場合には任意での風疹含有ワクチン接種を検討する。

「2回の予防接種記録が無い場合」の文言がAnswerに追加されたのです。

これにより、生涯で2回の接種歴がある場合は必ずしも接種する必要がないことがガイドラインにも明記されました。

RSウイルスワクチンが日本で発売開始するとなれば漫画ブログで1記事まるごと使って解説したり、

隙あらばワクチン接種を啓発する立場でやってきましたが、「ただし意味のある場合に限る」というスタンスでもあるため、

抗体価16倍の人に何度も繰り返し接種することをあまり積極的には勧めてきませんでした。

そこにきて今回のガイドライン改訂は私個人の考えにも合っていましたし、何度も何度も接種して「また抗体がつかなかった」と落ち込んでしまう人が出る悲劇が減ったのは良いことだと思います。

というわけで本日は、

「本当に抗体価16倍以下で風疹ワクチンを接種しなくても良いのか?」

「抗体価が上がりやすい人と上がりにくい人の違いは?」

といったあたりを解説してみましょう🐻‍❄️

***

各国の風疹ワクチンの扱いについて

今回、日本産科婦人科学会のガイドラインが改訂されたという話をしてきたわけですが、

その前に他の各国政府機関はどういう対応をしているのか?をまとめておきましょう。

(アメリカやカナダは州ごとに差があるほか、実際の妊婦健診運用に違いがある場合もある)

アメリカCDC
・妊娠可能年齢の全女性は、風疹の抗体を保有していることor風疹ワクチンの確実な接種歴を提示すること。
・妊娠可能年齢の全女性は、風疹の抗体価が低ければ3回まで風疹ワクチン打っていい。

イギリスUKHSA
・風疹ワクチンを2回打ってるかどうかが重要。風疹抗体を測る必要は無い。
・というか風疹の抗体検査の信頼度が微妙。抗体価が低い時に追加接種するのは別にいいけど必要性は低い。

カナダNACI
風疹に関しては1歳以降でワクチン1回打った記録があればOK。(麻疹とムンプス込みで2回接種が推奨ではある)

オーストラリアATAGI
・妊娠予定の女性や妊娠初期の女性は全員、風疹抗体検査をすべし。
・抗体が低ければ、過去の接種を含めて2回まで接種可。それ以上に打つ意義は乏しい。

ニュージーランドHealth New Zealand
・2回の風疹ワクチン接種歴があれば「免疫あり」と見なす。
・妊婦健診で抗体検査はするけど、ワクチン接種歴の方が優先。

ドイツRKI
・2回の風疹ワクチン接種歴があれば「免疫あり」と見なす。
・抗体検査はワクチン接種歴が1回以下or不明の妊婦に限る。

フランスAssurance Maladie
・2回の風疹ワクチン接種歴があるかどうかが最重要。
・妊娠初期検査として風疹の抗体検査をする。
・低ければ産後にワクチン接種をするが、2回の接種歴があればそれでOK。

ちょっとわかりにくいのでまとめると、

カナダ⇒風疹ワクチン1回打ってればいいよ

イギリス、ニュージーランド、ドイツ、フランス⇒風疹ワクチン2回打ってればいいよ

アメリカ⇒風疹の抗体がつきにくい人は3回までワクチン打っていいよ

オーストラリア、ニュージーランド、フランス⇒妊娠前~妊娠初期に風疹の抗体検査をするよ

というわけで意外と統一されておらず、各国ごとの事情にあわせて方針を決めています。

***

抗体価って何?

ここでもう一段、前提となる話をしておきましょう。

そもそも「抗体価」とは何でしょうか?

その前に少しだけ風疹ウイルスの性質について触れておくと、

風疹ウイルスには赤血球をくっつけて塊を作る性質があります。

読者の誰もが理解できるもので例えると、

重ちーの「ハーヴェスト」が街中の小銭を集めるようなものだとお考え下さい。

出典:ジョジョの奇妙な冒険 第4部 70話

出典:ジョジョの奇妙な冒険 第4部 70話

つまり、シャーレなどの容器に赤血球と風疹のウイルスをぶち込むと赤血球が固まるわけです。

しかしこの反応をさせるシャーレに「風疹をやっつける抗体」を一緒に入れておくと、赤血球が固まらなくなります。

日本人全員が知っているもので例えると、キラークイーンがハーヴェストを殲滅するような感じですね。

出典:ジョジョの奇妙な冒険 第4部 80話

出典:ジョジョの奇妙な冒険 第4部 80話

この性質を応用することで「風疹の働きを阻害する『抗体』をどれくらい保有しているのか」を推定することが可能になります。

たとえば、その人の血清を8倍に薄めたもの+風疹ウイルス+赤血球をいっぺんにぶち込むと赤血球が固まらなかったが、さらにその倍(16倍)に薄めたやつだと赤血球が固まってしまった…

という状況なら、その人の抗体価は8倍という判定になります。

同じ要領で倍々ゲームを繰り返すことで、16倍、32倍、64倍、128倍…などなどの結果が出るのです。

よって理屈上は風疹抗体価65536倍という16ビットの申し子みたいな状況も存在するっちゃします。

そこまで調べたい状況があるかどうかはさておき。

そしてこの日本で使われる「HI法」ですが、実はちょっと古い検査法で、世界的には主流ではありません。

現在では、酵素反応などを利用して抗体の数を測定する「EIA法」が主流となっています。

HI法には「工程に手作業が多くて自動化しづらい」「血清中に赤血球の凝集を阻害する別の物質が入っていると偽陽性が出る」などのデメリットがあるため、WHO的にも主流とはいいがたい扱いです。

ただし、EIA法も測定キットごとに値に差が出るという弱点もあるのですが。

まあとはいえ、今年の日産婦のアレを鑑みるに、今後どこかのタイミングで世界標準のEIA法に推奨を変えちゃう可能性は十分あると思います。すでにEIA法で運用してる病院は国内にもいくつかありますし。

ただ「HI法の〇倍はEIA法の△IU/mLに相当する」的な統一指標が無いので、今年の日産婦のアレを髣髴とさせるレベルで学会が荒れるんだろうなたぶん。

***

本当に抗体価16倍以下で風疹ワクチンを接種しなくても良いのか?

前提知識はこのあたりにしまして、ここからは今年の変更点である「本当に抗体価16倍以下で風疹ワクチンを接種しなくても良いのか?」という問題について考えてみます。

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