全力解説 vol.69「ジエノゲストについて語る。超語る。」

ひと口に「産婦人科」と言っても、いくつかの分野があります。
妊娠や出産を取り扱う分野、良性~悪性の腫瘍を取り扱う分野、不妊治療を取り扱う分野などなど。
そんな中で、妊娠・出産は話の展開が多岐にわたり、リクエストも多いためブログやレターで扱うことが多いのですが、
実のところ私の専門分野は、低用量ピルなどのホルモン治療の分野(生理痛とか更年期症状とか)だったりします。周産期や腫瘍も日常業務でガッツリやりますが。
そういった立場から、「避妊」「生理痛改善」「出血量減少」「PMSなどの随伴症状改善」などの効果を兼ね備えた神の薬として、
そして今回ご紹介するのがジエノゲスト。
月経に関連する症状を改善させる薬として、
低用量ピルをバージョン1、ミレーナをバージョン3としてお話ししてきましたが、
ジエノゲストはちょうどその中間、バージョン2の立ち位置です。
何故ジエノゲストはバージョン2という半端な扱いなのか、ここまで単独記事で取り上げてこなかったのかと言いますと、
合う人にはめっちゃ合うのですが、使用感に若干のクセがあるためです。ホント良い薬なんですけども。
たとえるならピルが花山薫、ミレーナが烈海王だとすると、ジエノゲストは愚地克巳、
ピルが手塚国光、ミレーナが跡部様だとすると、ジエノゲストは柳生比呂士くらいのポジションでしょうか。

出典:テニスの王子様 195話
余談ですが、「紳士(ジェントルマン)」こと柳生比呂士のチームメイトは
「詐欺師(ペテンし)」
「達人(マスター)」
「悪魔(デビル)」
「皇帝(皇帝)」
「神の子(神の子)」
など、およそ中学校のテニス部員らしからぬ二つ名を持っていることでお馴染みです。
いやある意味では中学生らしいのか?
話を戻しまして、本記事ではジエノゲストは何に効くのか?どういう効果があるのか?
おすすめできる人は?注意点は?似た薬の使い分けは?骨粗鬆症リスクは?
といったあたりを解説していきましょう。
ジエノゲストの親戚のようなミニピル(スリンダ)の話もあるぞ🐻❄
黄体ホルモンの話
ジエノゲストやミニピル、そしてミレーナ。
これらはいずれも「黄体ホルモン(≒プロゲステロン)」の作用をもった薬です。
女性ホルモンにはその1「エストロゲン」とその2「プロゲステロン」が存在し、どちらも子宮の内膜に作用します。
果物の収穫にたとえるなら、エストロゲンは肥料や水などの果実に栄養を与える役割に相当し、
プロゲステロンは剪定や雑草の処理などといった良い果実を残す役割に相当します。

子宮内膜が受精卵(胚盤胞)の着床に適した環境に育つためには、エストロゲンとプロゲステロンが絶妙なバランスのもとに増減する必要があり、
逆に言うと、この絶妙なバランスが崩れると内膜の発育に何らかの異常をきたします。
エストロゲンが異常に効きすぎた状態というのは、果物も雑草も無秩序に育ちまくった、言わば管理が行き届いていない果樹園の状態です。
人間で言うところの月経不順や不正出血などが生じますし、これが長期的に続いてしまうと最悪、子宮体癌のリスクも上がります。
この「エストロゲン効きすぎ状態」が自然状態で起きてしまう、最も身近な病気がPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)ですね。
逆に、プロゲステロンだけが慢性的に効きすぎる状態というのは外部から何らかの手を加えない限りほとんど起こりえませんが、
もしもプロゲステロン効きすぎ状態が続けば雑草どころか正常な果物も剪定されまくる状況になります。
これは人間で言うと子宮内膜が育たない状況に相当しますが、
裏を返すと着床が妨げられて避妊効果を発揮しますし、剥がれ落ちる内膜の量も減るので出血も減り、月経痛も改善します。
要するに、「プロゲステロン効きすぎ状態」は一概に悪いことばかりではありません。
そしてこの「プロゲステロン効きすぎ状態」を人為的に作り出すのが黄体ホルモン製剤(≒プロゲステロンの薬)であり、
具体的な薬がご存知ミレーナ、そしてジエノゲストやミニピルというわけです。
(ただし得意分野の違いなどもあるため、全ての黄体ホルモン製剤が避妊効果・月経困難症治療などをカバーするわけではありません)
黄体ホルモン製剤と低用量ピル、どっちが良いのか?
ここで神の薬バージョン1であるピルと比べてみると、
低用量ピル・超低用量ピルは「エストロゲンとプロゲステロンの両方が入った薬」、
黄体ホルモン製剤(ジエノゲストとかミレーナとか)は「プロゲステロンだけが入った薬」という違いがあります。
ピル・ジエノゲスト・ミレーナのすべてに共通する作用として、生理痛を和らげ、出血量を抑える効果があります。
このメイン作用の優劣に関してはそれほどの大差はありません。
そうなると当然出てくる疑問が、プロゲステロンさえあれば良いのでは?わざわざピルを選ぶ必要はあるのか?という点でしょう。

そこで、エストロゲンを含んでいるピルと、エストロゲンを含まない黄体ホルモン製剤の使用感を比べてみるとこんな感じになります。
◎不正出血リスク
・ピル
エストロゲンには子宮内膜を維持する作用があるので、不正出血は多少起きにくい。
超低用量ピルや連続投与法だと少しだけ不正出血が起きやすいが、慣れれば減ることが多い。
・黄体ホルモン製剤
子宮内膜を維持するエストロゲンが無いので、かなり不正出血は起きやすい。こちらも慣れれば減りやすいが。
ディナゲスト0.5mg錠だと不正出血をきたす割合が93.8%。
◎血栓症リスク
・ピル
ピルに含まれるエストロゲンにわずかながら血栓リスクあり。
言うても、年間1万人につき1~5人程度(なにも飲んでない人)の発症率が
ピル内服者だと年間1万人につき3~9人程度になるくらいなので、絶対リスクがさほど上がるわけではない。
とはいえ年齢や喫煙状況などによっては避けた方が良い。
・黄体ホルモン製剤
ものによるが、原則としてジエノゲスト・ミニピル・ミレーナは血栓症リスクを上げないので、ピルが飲めない人にはこっちがおすすめ。
◎避妊効果
・ピル
避妊効果や月経困難症の改善効果が確立している低用量ピルはいっぱいあるのでよりどりみどり。
体に合うやつを探そう。
・黄体ホルモン製剤
現在、避妊効果が確立している黄体ホルモン内服薬はミニピルの「スリンダ」一種類のみ。内服薬以外を含めればミレーナもあるが、どうしても選択の幅が狭いのが欠点。
◎骨密度への影響
・ピル
ピルに含まれるエストロゲンには骨密度を保つ作用があるため、基本それほど骨密度低下リスクを気にしなくて良い。
ただし全く影響が無いとまでは言えないので、10代女性なら超低用量ピルよりも低用量ピルのほうがおすすめ。20代以降ならどちらでもOK。
・黄体ホルモン製剤
骨密度への影響が懸念される……のだが、この問題を深く掘るとスゲーややこしい。
私はたぶん全産婦人科医の中で上位5%に入るであろうくらいには骨密度を測ってるくらいの骨密度大好きおじさんだが、結論だけ言うとジエノゲスト飲んでるからといって過度に気にしすぎる必要はない。でも骨密度に対する意識は大事。
骨密度問題は超深くて大事なので、詳しくは後述、
あるいは次回更新の記事vol.70にて解説予定。
◎特定の疾患に対する強み
・ピル
特に第四世代ピル(ヤーズ・ドロエチ)では「PMS」「PMDD」に適応が強い。
・黄体ホルモン製剤
特にディナゲスト1mg錠では「子宮内膜症」に適応が強い。
その他、意外と種類が豊富なのでマニアックな作用をもった薬がいくつかある。
というわけで、ピルと黄体ホルモン製剤(主にジエノゲスト)は単純な優劣があるわけではなく、相互補完の関係にあると言えます。
どちらがよりおすすめできるかは状況次第で変わってきます。
手塚国光よりも柳生比呂士の方がいい場面だってありますし、
花山薫よりも愚地克巳の方が盛り上がる場面だってあるのです。あるよね?
日本国内の黄体ホルモン製剤の違い
そんな黄体ホルモン製剤ですが、実のところジエノゲストやミニピル以外にも山ほど種類があります。
2026年7月現在、日本国内で使える黄体ホルモン製剤を一覧表にしたのがこちらです。
(合剤、腟錠、注射薬、腫瘍治療に使うタイプの製剤は除外しています)

「何の目的で何を使えばいいのか」はこの一覧表でだいたいは網羅できますが、
これまた主用途と承認適応がゴチャゴチャした超大ざっぱな図であることにご留意ください。
そして、こんだけ網羅しといて何ですが、私が実際に臨床で使うのは圧倒的にディナゲスト(ジエノゲスト)とミレーナ、次いでノルレボ、スリンダ(ミニピル)といった順番です。
それ以外はほとんど使いません。(不妊治療や腫瘍系の先生だとまた違ってくるのですが)
それではここから、各黄体ホルモン製剤の使用目的や特徴、
あとぶっちゃけ使いやすいかどうか(主観込み)を忖度なしで述べていきましょう🐻❄
①ディナゲスト1mg(ジエノゲスト1mg)

出典:持田製薬株式会社
後述する古典的黄体ホルモン製剤を除くと、生理痛絡みでは日本で初めて承認(2007年)された黄体ホルモン製剤なので、誇張でなく「女性ホルモン剤」の立ち位置を一段階引き上げた薬と言って良い。
私もしょっちゅう処方している。いつも大変お世話になっております(高速手もみ)
ただし、けっこう強力な黄体ホルモン作用を持つので、「月経困難症」(生理がしんどい)だけでは保険適応にならず、「子宮内膜症」や「子宮腺筋症」(生理痛がスゲーしんどくなる病気)の診断名が必要。
副作用も相応に強い傾向があり、添付文書には「不正子宮出血:88.3%」「ほてり:20.6%」などが記載されており、後述する0.5mg錠よりも総じて強め。
とはいえ、飲み続けるうちに慣れていくことも多いので、最初はちょっと相性が出やすいが少しずつ体に馴染むタイプの薬と言って差し支えはないと思う。
子宮内膜症というのは生理痛・不妊症・悪性腫瘍リスクなど、断じて放っといちゃイカン病気なので、それに特化した治療ができるこの薬は貴重。
ちなみに「ディナゲスト」は先発品の製品名で、「ジエノゲスト」は成分名だが、
のちに「ジエノゲスト」という後発品が出たので微妙にややこしくなった。
②ディナゲスト0.5mg(ジエノゲスト0.5mg)

出典:持田製薬株式会社
そんなディナゲスト1mgの量を半分にしてみたよ!ということで開発されたのがディナゲスト0.5mg。
私が「神の薬バージョン2」と呼んで憚らないのは主にこのディナゲスト(ジエノゲスト)1mgと0.5mgのことである。
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績


